桜の記憶
「ん? そりゃそうだろ。あいつとは小さい頃からずっと一緒だったから、なんていうか家族に近いような、そういう存在なんだよ」
「確か、幼なじみって言うんだっけ?」
食べ終えたおにぎりの包装を丸めながら、桜はつまらなそうな顔をする。
「ああ、そうだ」
いろいろとこの世界の知識を増やしているのだから、そういう人間関係についても認識はしているはずだ。
それでもいちいちこんなことを訊いてくるというのは、俺や有紀の中にあるプライベートな情報には触れていない、ということなのだろう。
ある意味で町全体を支配しておきながら、変なところで律義な悪魔だ。
(プライバシー丸裸にされないのはありがたいけどな)
「ねぇ?」
ついっ、と手元に落としていた視線を上げて、桜がこちらを見つめる。
「あたしも幼なじみになれば、雄治はもっとちゃんとあたしの言うことを聞いてくれる?」
「……は?」
いきなり突拍子もないことを言われ、一瞬頭の中の機能がマヒしてしまう。
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