桜の記憶

「わかった。俺も読みたい本あるしちょうどいいや」


「ありがとう。それじゃあ、放課後校門の前で待っててくれる? わたし保健委員の当番でやらなきゃいけないことがあるから。たぶん、すぐ終わると思う」


 申し訳なさそうに手を合わせる有紀。


「ああ、了解。待っとくよ」


「ごめんね、なるべく早く済ませるから」


「気にする必要ないだろ。別に有紀が悪いわけじゃないんだし」


「うん、ありがと。雄くんって昔から――」


「ちょっと有紀ー! 加藤かとう先生が話あるからすぐ職員室に来てほしいってー」


 有紀が何かを言いかけるのに被せるように、クラスの女子が廊下から声をかけてきた。


「あ、うん。わかった。すぐ行くから」


 相手の女子に手を挙げて答え、有紀は困ったよう俺に苦笑を見せる。


「ごめん、ちょっと行ってくる。また後でね」


「おう」


 小さく手を振って教室を出ていく有紀。


 その姿が見えなくなると同時、桜が口をへの字に曲げながら文句を呟いてきた。


「何か、雄治と白峰さんって仲良しだよね」

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