桜の記憶

「関係なかったらこんな時間に部屋に連れ込んでたりしないでしょうよ。て言うか、このことお母さんたち知ってるの? 内緒にしといた方が良い?」


 俺の声を遮って、姉貴は含み笑いを浮かべる。


「この妄想馬鹿姉貴が……」


 うんざりしながら頭を押さえ、俺は疲れたように深いため息を吐く。


「……」


 すると、そんな俺を一瞥したサクラが突然姉貴の元へと歩きだした。


「お、おい……?」


 何をするつもりなのか。


 意図が掴めず戸惑いながら声をかけるも、完全に無視して振り向きもしない。


「はじめまして。雄治くんのお姉さんですよね? 騒がしくしちゃってすみません。もう少ししたらお邪魔しますので」


 丁寧な口調で挨拶をし、深々と頭を下げるサクラ。


 あれで靴さえ脱いでれば完璧なのだが、今は突っ込みたくもない。


「こんばんは。わたしは姉のゆかり。ひょっとして、同じクラスの子?」


 どうやら靴には気づいていないのか、馬鹿姉貴はごく普通にサクラへ対応する。


「あ、はい、そうです。同じなんです」

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