桜の記憶

 同じクラス、の意味をおそらくは把握していないのだろう。


 適当な相槌を返すサクラの背中に呆れた視線を送りつつ、俺は成り行きを見守る。


「あたし、この町のことあまり詳しくなくて、雄治くんにいろいろと教えてもらっていたところなんです」


「へぇ。転校生ってこと?」


「えっと、そうです。まさにそんな感じです」


(どんな感じだよ)


 今ひとつ言葉のおかしいサクラに胸中で呻く。


「ふぅん。そっかそっか。頭悪くて冴えない弟だけど、これからも仲良くしてあげてね。いつでも遊びに来て良いからさ」


 サクラの言うことを真に受けた馬鹿がにこにこと告げる。


「余計なことを……」


 本人には聞こえぬよう、低い声音でぼやいておく。


「はい、ありがとうございます」


 再び頭を下げるサクラに小さく手を振ると姉貴は、


「雄治、あんまり乱暴なことはしちゃ駄目だぞ。あ、このことはお母さんたちに内緒にしとくから、安心してね」


 と最後に言い捨ててドアを閉めた。


 足音が遠ざかり、隣の部屋に戻ったのを確認する。


「乱暴されてんのは俺の方だろ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る