桜の記憶

(やべっ――!)


 こんな現場を目撃されるのはあまりにも都合が悪い。


 家族に内緒で女子を部屋に連れ込んでいたとか、そんな誤解でもされたら一大事だし、あの姉貴なら真っ先にそういう発想に辿り着くはずだ。


「いや、何でもない! 何でもないからドアを開けようとか部屋に入ろうとか変な誤解しようとかはしなくていい! 帰れ! 今すぐ自分の部屋に帰れ!!」


「何馬鹿みたいなこと言ってんの?」


 必死の抑制も通じることなく、部屋のドアが呆気なく開かれる。


 鍵をかけておけば良かったと後悔するも、後の祭りだ。


「だいたい、こんな時間に一人で騒いでるとかいよいよあんたの脳味噌も――って、あれ? お客さん来てたの?」


 遠慮のかけらもなく部屋を覗き込んできた姉貴は、サクラの姿を見るなりきょとんとしたような顔になる。


「……へぇ、あんたが女の子を連れ込むなんてねぇ。これはこれは、とんだお邪魔を致しました」


「いや待て。予想通りだけど絶対誤解してるだろ。別にこの子と俺は何の関係もなくて――」

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