桜の記憶

         ◆


 廃病院でサクラと出会ったあの日の夜、俺は記憶を取り戻したいと迫るサクラへ近所にあるお寺と神社の場所だけを教えて廃病院を後にした。


 というか逃げた。


 悪魔が相手なら、警察よりもむしろ神聖な場所に行かせた方がいろいろと効果があるのではないか。


 外国だと教会とかで悪魔払いをしたりするなんて話を聞いたことがあったし、日本ならお寺か神社あたりに任せれば無事に問題解決だろう。


 そんなことを考えてのアドバイスだったわけだが、まずこれが既に間違っていた。


 翌日の夜、一人自分の部屋で漫画を読んでいると、突然開けていた窓からサクラが飛び込んできたのである。


 二階にある部屋の窓から、いきなり黒い物体が飛び込んできたため、この時はさすがの俺も驚いた。


 状況が掴めず情けない声をあげながら漫画を投げ出す俺を見下ろし、サクラはふてくされたような表情で詰め寄ると――しかも土足で――ずいっと不機嫌丸出しの顔を近づけてきた。


「嘘つき」

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