桜の記憶

「教室にいて俺らの声なんて聞こえるか? そんなに大声で喋ってた記憶もないけど」


「別に大声出さなくたって聞こえるわ。あたし、人間と違って耳が良いから」


 サラリと告げて、桜は持ったままだったおにぎりを目の前に突き付けてきた。


「お仕置きが嫌なら、今回だけ特別にチャンスをあげよっか?」


「は?」


 口の端を上げながらおにぎりを掲げる桜の言葉に、俺は首を傾げる。


「明日、夜の九時くらいに直接迎えに行くわ。今度はちゃんとあたしの記憶を元に戻す方法探すの手伝ってよね。じゃないと、もっと酷いお仕置き用意するから」


「……なんつー横柄な」


 あまりにも一方的な物言いに、俺は苦虫を噛み潰したような表情になってしまう。


「だいたいさ、何で俺なんだ?」


「ん? 何が?」


「協力を求めるなら、俺みたいなただの高校生なんかじゃなくてもっと他に頼りになる奴いくらでもいるだろ。大人とかさ」


 そう告げると、桜は少し何かを考えるように眉根を寄せたが、すぐに小さく首を横に振ってみせた。

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