桜の記憶

「その顔から察するに、約束忘れてたでしょ……?」


 こちらの心情を読み取ったかのように、桜の瞳が不穏に細まる。


「わ、忘れてねぇよ。ただ、俺にだっていろいろとやることがあってだな――」


「どうせゲームにでも夢中になってたんじゃないの? 確か、新作のゲームやり始めたとかなんとかって、三日くらい前にA組の根崎ねざきくんと話してたわよね?」


 咄嗟に言い訳を口にする俺を遮って、桜は淡々と言葉を吐き出す。


「なっ……? 何でお前がそんなことを」


 桜の言う通り、確かにそんな話をしていた覚えはある。


 中学時代からの友人である根崎ねざき 響介きょうすけと共に、新作ゲームの情報交換をしていたのが三日前くらいだ。


 しかしあの時、近くには桜の姿なんかなかったはず。


「お前、廊下にいたっけ?」


「廊下? あたしは教室にいたわよ。クラスの皆を観察してたから」


 観察って、こいつは何をしてるんだ。


 そんな疑問が湧き出てくるが、そこはあえてスルーしておく。

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