桜の記憶

 左手を腰に当てながら、桜はおにぎりを指差す。


「ふざけんなよ。お前、俺が梅干し食えないの知ってるだろ? 嫌がらせか?」


 桜が持ってきたおにぎりは、コンビニで買ってきた物だった。


 その包装しているビニールには梅干しと書かれたシールがわかりやすく貼付されている。


「こんなもん、誰が食うか」


 吐き捨てて、俺は窓の外へ顔を向けた。


「駄目。食べなきゃお仕置きにならないじゃない。なんなら食べさせてあげよっか?」


 言いながら包装を破きはじめる桜。


「……何で俺がお仕置きなんかされなきゃいけねーんだよ?」


 そんな彼女の手元を忌々し気に見つめて訊ねると、


「雄治があたしとの約束すっぽかしたからに決まってるでしょ。どうして昨日は来なかったのよ?」


 という答えが返ってくる。


 昨日の約束。


(……そう言えばそんなんあったっけ)


 適当に聞き流していたため、すっかり忘れていた。


 言われてみれば確かに、昨日の昼休みに何かやり取りをした覚えがある。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る