桜の記憶

 夜の廃墟で悪霊ならぬ悪魔――しかも翼が無ければ見た目は普通の女の子――に出会うことになるなんて、誰が想像できる?


 ましてや、頭の中読まれた挙げ句に助けまで求められちまうとか。


 さすがにもうどうすれば良いのかわからなくなる俺を、サクラは期待するような目で見つめ返してきている。


 果たしてそこにどれほどの期待をしているのか知る由もないが、ただの高校生にすぎない俺にいったいどうしろというつもりなのだろう。


 ただ、漠然とではあるが、たった今自分は引き返すことのできない面倒事に巻き込まれてしまったのではないかと、そんなことを頭の隅で感じ取っていた。


 そしてそれが間違いや勘違いなどではないことを、この先俺は痛感する羽目になる。





 とまぁ、これが俺とサクラが始めて出会ったときの出来事である。


 今から約一ヶ月半前の夏の夜。


 この日から、俺の人生はほんの僅かずつ狂いだしはじめたんだ――。

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