桜の記憶

 露出している肩口から生えるようにくっついているその翼は、顔を近づけて眺めても偽物とは思えないリアルさだった。


 と言うより、これは本物にしかみえない。


 ハリウッド映画で施すような特殊メイクやCGだというのなら納得しても良いが、そんな技術をこの少女が持っているわけがないし、いきなり翼が出てきた説明もつかない。


(……何だよ、これ)


 俺は罰ゲームでぬいぐるみを取りに来ただけだったはずだ。


 それが、何をどう間違ってこんな事態になってしまったのか。


 路上生活者が住み着いていたなら、まだわかる。


 警備員に見つかって補導されるのも、まぁありきたりな話だろう。


 幽霊でも現れて壁をすり抜けて行くくらいなら、怪談話のネタにもなったかもしれない。


 だけど、


 この目の前の少女はそのどれでもない。


 いきなり人を引き倒し、記憶を読み取り、あまつさえ羽根まで生やしてしまった。


 デモン。


 本人はそう名乗った。


 素直に受け止めれば、悪魔。


 それなら、黒い翼もあることだろう。


 でも――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る