桜の記憶

「すまほっていうのは知らないけど、あたしが住んでる世界の名前はハデス。こことは接しない別の世界で……」


 と、そこまで言ってから少女はハッとしたように一度話すのを止めた。


 そして、何事かを逡巡するような間を空けてから言葉を言い換えてくる。


「ああ、そっか。ごめんなさい、始めからちゃんと説明しなきゃわからないよね」


「いや、説明されてもわからない気配しかしないんだけど……」


 即答で返しながら俺は頭の中で聞いた言葉をリプレイさせる。


“あたしが住んでる世界の名前はハデス。こことは接しない別の世界で”


(これは、浮浪者の方がまだ話が通じたかもしれない)


 相手の脳内は完全におかしい。


 何がハデスだよ、と突っ込みたくなったが、たぶん何も良いことはなさそうだ。


「あのね、あたしは別の異世界からこの世界に来たの。名前は、サクラ=クラウン=ケフェリウス。デモンっていう種族に属してて、記憶や知識を司る力があるわ」


「……」


 こちらの心情など構うことなく、勝手に話を進める少女。

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