桜の記憶

 思っていたよりも小柄で、自分を引っ張り倒すほどの力があるようには到底見えない。


「……あなた、誰?」


 唐突に、少女が口を開いた。


 言われた内容が瞬時には理解できずにポカンとなったが、なんとか気持ちを持ち直す。


「だ……、誰って、そりゃこっちの台詞だよ。いきなり人に襲いかかるような真似して、いったい何考えてんだよお前?」


 密着していた顔を離して、俺は急いで立ち上がる。


 こんな夜中の廃病院でこの少女は何をしていたのか。


 廃墟マニアの類いかそれともオカルト好きの変わり者か。


「ごめんなさい。敵かなと思ったからつい……」


 申し訳なさそうなトーンでそう言葉を返して、少女もゆっくりと屈んでいた身体を元に戻した。


「は? 敵? サバゲーでもやってんの?」


 ひょっとして、この少女は電波系ってやつか?


 そんな疑念が浮かび、つい表情が引きつりそうになる。


「サバゲー? 何、それ?」


 訝しげな気配と共に、少女が首を傾げて聞き返す。

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