桜の記憶

 背後に立っているであろう手の正体を確かめるべく、俺は即座に身体を反転させた。


「う……っ」


 しかし反転させたその瞬間には、既に相手は自分の眼前まで距離を詰めており、鼻先が触れるのではないかと言うくらい間近でこちらの顔を覗き込んできていた。


 暗闇の中、ギラリと光る眼球がじっと俺を凝視する。


 もはや何もできぬままただ固まっていると、相手はおもむろに俺の頭部へ手を触れさせてきた。


(……え?)


 身の危険を感じてさすがに混乱しそうになるも、頭を掴むその手の感触に、沸き上がりかけた混乱は一瞬にして戸惑いへと変換されてしまった。


 自分の頭を掴む白い手。


 思っていたより小さく華奢なそれはまるで――。


(お、女の子?)


 異様に熱を帯びた相手の体温が脳に浸透してくるのを感じつつ、俺は知らず速くなっていた心拍数を元に戻す努力を試みる。


 数秒間の静止の後、スルリと離された手の奥に再び相手の顔が現れた。


 間違いない。女の子だ。


 はっきりと確認できる環境ではないが、同年代くらいだろうか。

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