桜の記憶

(……気のせいか)


 そう結論をだし、肩の力を抜いた瞬間――。


 カタッ……と、また同じ方向から物音が聞こえた。


「……」


 今度は、聞き間違えや勘違いなどではない。


 ちらりと外の様子を窺うも、風が吹いた気配も感じることはなく。


(間違いない、何かいる)


 ネズミのような小動物だろうか。


 人が隠れているとはあまり考えたくない。


 なるべく音を立てぬよう注意しながら、俺は慎重に歩を進めた。


 一番手前の部屋を素通りし、二番目の部屋に移動する。


 何が潜むかわからない恐怖で、心臓の鼓動が速くなる。


 入り口の手前で一度大きく息を吐き出し気持ちを落ちつけると、俺はそっと中の様子を覗き込んでみた。


(……?)


 一目見て、室内の雰囲気が他と違うことに気づく。


 今まで見てきた部屋にはほとんど何も無かったというのに、この部屋には不自然なくらいに物が散乱していた。


 持ち出されずに放置されていたとおぼしきベッドに、ボロボロになった大量の布。

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