桜の記憶

 ゴミやガラス片が散乱する床を踏み締めながら通路へ戻ると、側にある階段へ首を巡らせた。


 病院の中は暗いが、通路の窓から射し込む月光のおかげで何も見えないというほどではない。


 こうして通路を歩くだけならば、懐中電灯が無くても不便とは感じないくらいだ。


「さて、それじゃ次は三階か」


 小声で囁きながら、階段へと向かう。


 そもそも、何故自分がこんな夜中に一人廃墟を徘徊するという、馬鹿丸出しなことをやっているのか。


 事の発端は、一学期最後の期末テストが原因だった。


 同じクラスの友人三人と全科目の合計点を競うという、くだらない勝負に参加したのがいけなかった。


 一位は他のメンバーから好きな物を奢ってもらえ、そして最下位は洒落にならない罰ゲームを受ける。


 そんなルールと共に実施された勝負の女神は、無慈悲にも俺を蹴落としてくれたわけだ。


 僅か三点差で最下位となった俺は、見事罰ゲームの餌食となり【一人肝試し】という名の試練を受ける羽目になってしまった。

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