桜の記憶

雪鳴 月彦

桜の記憶

         ◆


 梅雨が明けて、一週間くらいが過ぎただろうか。


 ジメジメした憂鬱な期間が終わると同時に、蒸し返すような猛暑日が連日に渡って続いていた。


 夏休みに入って、今日が三日目。


 正確には、あと三十分ほどで四日目になる。


 深夜十一時三十分。


 スマホの画面に映し出された時刻を確認し、俺は絶望的なため息をついた。


 手に持った懐中電灯で周囲を照らし、改めて自分の居場所を確かめる。


「…………」


 見える景色を一言で述べるなら、廃墟。


 数十年前に潰れた――という噂の――病院跡なのだが、そんな場所に俺は今一人で立ち尽くしていたのだった。


 楽しみにしていた夏休み早々、こんなイベントをこなす羽目になるのだから嫌でもため息くらいは漏れてしまうのは仕方のないことだろう。


 建物の周りに民家等は一切無く、鬱蒼と茂った木々が立ち並ぶばかり。


 山奥、とまではいかないがそれに近いような環境にこの廃病院は建っていた。


「……二階にも無し、ね」


 三階建ての真ん中。


 二階の一番端にある元は病室であっただろう部屋の中で一人呟き、俺はポリポリと頭を掻く。

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