第21話 的中

「バル様、どうぞ」




 ミーナは茶色のフード付きローブをとり出して、バルに着せてくれる。


 彼女自身が使う強力な認識阻害系の魔術を使われていて、破るためには彼女に匹敵する実力がなければならない。


 さらに同じ魔術を使われた白い仮面もかぶる。


 バルの光の異能でも同じような芸当は可能だが、彼は自分の異能を過信していなかった。


 ただのさえないおっさんのバルは、何も知らずにのんびりと街道を歩いているという設定である。


 今いるのは八神輝レーヴァテイン最強を誇り、ミーナを唯一御せるバルトロメウスであった。




「どこから手をつけますか?」




「ファイアウルフたちはそもそもどこからやってきたのか、それは分かっているのか?」




「目撃されたのは平原の東とのことです。場所が場所だったので最初は信じてもらえなかったとか」




 目撃者の旅人は最初、ファイアウルフがそのようなところに突然現れるわけがないと馬鹿にされて悔しい思いをしたという。


 似たような証言がいくつも出たため、人出をやって事実確認がされて、帝都の冒険者ギルドに依頼が回ってきたのだ。




「じゃあ他の地域にも情報提供を呼びかけるところからか」




「すでにすませましたが、めぼしい情報はありませんでした。おそらく期待はできないでしょう」




 自分の言葉に即答して来たミーナに、バルは頼もしいと笑う。




「そうか。他で目撃情報がないなら、転移魔術で送り込まれた可能性は高いな」




「しかし、ファイアウルフをあの程度送って、敵は何をしたかったのでしょうか?」




 ミーナの疑問に彼は答える。




「ひとつ、転移魔術の実験」




「より強い魔物をより多く送りこむためにですか?」




 彼女もすぐに思い当たったらしい。


 バルはうなずいてから口を動かす。




「ふたつ、帝国の調査能力の確認、あわよくば下位の冒険者の間引きだな」




「調査能力の確認は分かりますが、間引きですか? 低ランクたちを間引く意味が敵にはあるのでしょうか?」




 今度は分かりかねたらしく、ミーナは首をかしげる。




「最初は誰でも低ランクだからな。低ランクを潰しておけば、経験を積んで将来高ランクになったかもしれない連中を全滅させることができる」




「……失礼ながら考えすぎでは?」




 バルの意見を聞いた彼女は、非常に珍しいことに同調しなかった。




「正直、今回の敵がそこまで頭がいいように思いません」




「そうだといいな。敵の頭いいと疲れる」




 バルは笑ってそう言う。




「皇帝の予想では、このあたりに第二撃が来るとのことでしたが」




 ミーナは半信半疑という面持ちで口を開く。




「だからこそファイアウルフは実験だとお考えに?」




「そうだな。まあ同じ場所にもっと強い魔物を転移魔術で送って来るのか、実は私も半信半疑なのだけどね」




 バルは肩をすくめる。


 敵の先制攻撃を八神輝投入という常識外の一手で防いだのだから、警戒はされているはずだと彼は思う。




「陛下は一回やったからもうないと考えるのではないかとおっしゃっていたが……」




「そうですね。我々は常に投入されるわけではないですし」




 ふたりの会話がここで止まったのは、転移魔術の兆候を感じたからだ。




「ミーナ、これは?」




「皇帝の読みがズバリ的中だったようですね」




 バルの問いに彼女は短く答える。




「以前申し上げたように、転移魔術で魔物の大群を送るのは難しいのです。ですから練習しているのかもしれませんね」




「迷惑な話だ」




 彼女の推測を聞いて彼は顔をしかめた。


 彼らの前には五十ほどのトロールを引き連れた黒ローブの男がひとりいる。


 男はバルとミーナを見て一瞬ぎょっとなる。




「な、なぜエルフが……? ええい、やってしまえ」




 男はトロールに命令を出す。




「まあ普通はそうだろうな。エルフと言えど、トロール五十体も同時に相手にできる個体は珍しい」




 バルは他人事であるかのように言い、男の判断の速さに感心して見せた。




「では例外がいることを教えておきましょうか」




 ミーナは淡々と彼の言葉に応じる。

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