第20話 助けた者
ターニャ以外はまだあきらめた様子はなく、ファイアウルフをにらみつけている。
しかし、それで止まるような魔物ではない。
五頭が同時に地を蹴った瞬間、光が走ってファイアウルフたちの体を打つ。
「きゃいん!?」
突然の一撃にファイアウルフたちは悲鳴を残して、体が飛んでいく。
いったい何をどうしたのかターニャには分からなかったが、ファイアウルフたちはよろよろと起き上がった上に外傷らしい外傷はない。
ただ、彼らはとても怯えながらきょろきょろと周囲を見回す。
ターニャもつられるように周囲を見たが誰もいないし、アンの探知魔術にも引っかからない。
得体のしれない攻撃に警戒しながらファイアウルフたちはそっと逃げ出していく。
「……助かったの?」
リリーの言葉にアンがけわしい顔で言う。
「分からないわ」
彼女は現実的だから、ファイアウルフを攻撃した者が自分たちの味方とはかぎらないと考える。
そこに楽観的な声を出したのがターニャだ。
「でも今のはロイが言っていた、帝都を救った光の戦神様の一撃みたいじゃない」
「光の戦神様がどうしてこの場にいて、私たちをなぜ助けてくれたわけ?」
アンの冷静な指摘がパーティーに冷や水を浴びせかける。
「そ、それは……」
ターニャは口ごもってしまった。
光の戦神が彼女たちを助けてくれること自体は不思議ではないが、どうしてここにいるのかという説明が思いつかない。
「光の戦神様ではありませんよ」
そこへ若い女性の声が突然聞こえて、四人の女性パーティーはぎょっとなる。
彼女たちはおそるおそるそちらに視線を向けると、黄金の髪とエメラルドの瞳の美しい女性エルフの姿があった。
身長は百六十センチほどで類まれなる美貌の持ち主だが、厳しい表情と視線のせいで彼女たちは憧れよりも畏怖を覚える。
「ま、まさか、ヴィルへミーナ様ですか?」
アンが口をパクパクさせながら問いかけた。
「ええ」
ミーナは短く肯定する。
彼女の容姿は別に隠されていないため、言い当てることができる者がいても不思議ではなかった。
「ヴィルへミーナ様!?」
「八神輝レーヴァテインの!?」
ターニャたちは色めき立つ。
帝国の最大戦力の一角たる彼女の名前は知っていたし、同性という親しみもあった。
「そ、そのヴィルへミーナ様がなぜ……?」
問いかけるアンの声は緊張でこわばっている。
彼女たちからすれば天上の民に等しい存在がどうしてここにいて、なぜ自分たちを助けてくれたのか。
「ファイアウルフがこのあたりに出るのはおかしいと判断し、調査に来たのです。あなたたちを助けたのは偶然目の前にいたからですね」
ミーナは感情のこもらぬ声で説明する。
いくら冒険者が依頼をこなす過程で死ぬのは自己責任だと言っても、目の前で見殺しにするのは忍びなかったということだ。
ターニャたちはそう解釈し、礼を述べる。
「ありがとうございます、ヴィルへミーナ様。このご恩は一生忘れません」
彼女たちに対してミーナは冷淡に応じた。
「助けたのも何かの縁です。このまま戻り、ギルドにありのままを報告しなさい」
「は、はい」
彼女の冷淡さに怯んだが、相手は命の恩人、恩エルフである。
ターニャたちは自分に言い聞かせて、その場を後にした。
彼女たちが去ってからミーナは息を吐く。
「……これでいいのですね?」
彼女は声に出したわけではんく、魔術の「思念会話」を使ったのだ。
「ああ、ありがとう、ミーナ」
相手はバルであり、実際にターニャたちを助けた本人である。
ターニャたちは彼のことをさえないただのおっさんだと思っているため、姿を見せるわけにはいかなかった。
その点、ミーナであれば彼女たちは納得させるのはたやすい。
実際彼女たちは全く疑わずに去っている。
(念のため来て見てよかったな)
と彼は思った。
やはり顔なじみであり、知り合いの恋人が死ぬなどできるだけ避けたい。
「では本来の目的を始めますか?」
ミーナに言われて彼はその場に姿を見せる。
光の異能の応用で、周囲に姿を溶け込ませていたのだ。
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