第6話 怪しい影
バルは異端とも言える存在だ。
魔術は苦手だし、剣術を始め武術もできない。
それでも彼が八神輝レーヴァテイン最強と言われるまでになったのは、死にかけた際に覚醒した異能のおかげだ。
簡単に言うと『光を扱う異能』である。
光を撃ち出して攻撃したり、光を纏って超スピードでの移動が可能なこの異能を、バルの師に当たる男性は『光君タキオン』と名付けた。
異能の使い手自体帝国では珍しく、光の使い手は過去に例がないという。
バルは偶然異能に目覚めた幸運に感謝しながらも、伸ばそうと鍛錬を欠かさなかった。
その結果、彼は八神輝レーヴァテインの一員になり、たった今帝都を救ったのである。
ガーゴイルが突然の光で殲滅されたところを、遠く離れたところから魔術道具を使って見ていたひとつの影は舌打ちした。
「ちくしょう、光の戦神を残していたのか」
彼の隣にいるもうひとつの影が問う。
「どうする? これでは他の戦力が分からん。また何か召喚するか?」
「止めておこう。雑魚どもは大量に呼べるが、無限に出せるわけではない。光の戦神がいるとなると、五〇〇〇を出そうが一万送ろうが、一瞬で殲滅されてしまうだけだろう。無駄に戦力をすり減らす愚行になってしまう」
影の声には悔しそうな響きがある。
「だからと言って強力な魔物を今出す訳にはいかないか」
「ああ。魔物では光の戦神には歯が立たぬだろうし、我々の本命は他だ。帝国はついでにすぎん」
影たちは相談し合い、帝都から手を引くことに決める。
「それにしても何故光の戦神を残していたのだ? 当代皇帝は切れ者なのか?」
「いや、臆病者らしいぞ。だが、それだけに最悪の事態を考えつくという点に関しては無能ではないようだ」
影の皇帝に対する評価は辛らつだった。
「臆病者であるがゆえに、光の戦神を残していたのか? 他はどうだろう?」
「先ほど連絡があった。北の方には断罪の女神ヴィルへミーナが現れたらしい」
「断罪の女神だと? それではひとたまりもあるまい」
影の声には驚きが含まれている。
断罪の女神ヴィルへミーナは彼らでも知っている伝説のエルフの名前だ。
「あっという間に潰されたそうだ。まあ捨て駒どもだから痛くはないが」
「光の戦神は残しつつ、断罪の女神は投入してくるか。ただ臆病ではなく、大胆な面もあるのだな」
影のひとつは皇帝を評価しようとしていたが、もう片方は否定する。
「どうかな? 臆病過ぎた結果、偶然かもしれんぞ」
「……そうだとすると、我らの存在を気取られたのは悪手ということになるかもしれん。帝国は後回しにする予定だろう?」
影のひとつは困ったように言い、もうひとつは笑い出した。
「何を言うか。いきなり帝国の最大戦力を動かすような男が皇帝だと分かったのは収穫ではないか。これからは八神輝レーヴァテインが出て来ることを想定した上で作戦を立てることができる」
「そ、そうだな」
弱気になりかけていた影は気を取り直す。
「それにしても忌々しいのは八神輝レーヴァテインの奴らだ。ガーゴイル二〇〇〇を一瞬、オーガ五〇〇〇、フライングタイガー三〇〇〇をたったひとりで無傷で殲滅だと……バケモノだらけではないか」
「特におかしいのはガーゴイルを一瞬だな。他のは時間さえかければ不可能ではない」
「帝国は最後にしようという参謀の意見は正しかったな。まともに相手にしたら、どれだけ戦力があっても足りない恐れがある」
「しかし、最終目標の為には八神輝レーヴァテインを何とかしなければならないぞ」
「それは参謀に任せよう。我々の手に負えるような存在ではない」
彼らはそう言うと転移魔術を使ってどこかに消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます