悪役令嬢に転生してしまったけれど、自由に生きたっていいじゃない

巴 雪夜

自由に生きるとは言ったけれど、死亡エンドぐらいは避ける

プロローグ

第0話 思い出した前世


 鬱蒼と生い茂る木々に小鳥の囀り、空は青く太陽は煌めている。春うららかなそんな天気の良い日、カナリアは馬車に揺られながら外の景色を眺めていた。


 ずっと続く森の景色に飽きてきてはいるが、話し相手がいるわけでもない。カナリアは紅く長い髪を梳き、欠伸をして頬杖を突く。


 今日はアーツベルン魔法学園の入学式前日である。アーツベルン魔法学園はこのヴェルゴ王国、近隣の国の中でも歴史が深く、優秀な魔導士や戦士を輩出している。魔導士や戦士を目指す人間は、この学園を目指すほどに人気があった。


 公爵家の一人娘であり、魔法の才があったカナリアは彼女の意志などなく、強制的に入学させられてしまったのだ。全寮制であり規則が厳しいと有名な学校になど入りたくはなかったが、父の顔もあるため仕方なく通うことにした。


 それにもう一つ嫌なことがあった、それは――



「どうして、ワタクシ。乙女ゲームのキャラクターに転生してきてしまったのかしら」



 そう、カナリアは此処が乙女ゲームの世界であることを思い出してしまった。前世の記憶というもので、それも悪役令嬢と呼ばれる当て馬な人物に生まれ変わってしまったのだ。


 前世の記憶を思い出した頃にはすでに遅く、自身は陰で悪口を言われるぐらいには悪役令嬢の道を進んでいた。



「ちょっと我儘いったり、自由に行動しただけなのだけれどねぇ……」



 自身の日ごろの行いに難があったのは認めるが、後悔はしていない。そんなものよりも今が大事なのだ。


 学園には主人公である彼女がいる。自身が悪役令嬢としているのだから、主人公もいて当然だ。あぁ会いたくない、面倒ごとは嫌である。



「まぁ、私は自由に生きるだけだけれど」



 生まれ変わってしまった現実は変えることができないのならば、自由に生きてやろうじゃないか。


 カナリアは例えそれが死亡エンドであろうと、みじめなバッドエンドであろうと自由に生きていくと決めた。自由に生きて死ぬほうが楽であると思ったのだ。



「どうなるかしら……」



 それでも少なからず、学園生活に不安はあるようで。深紅の瞳が僅かに揺れていた。



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