第2話 ハロウィン
涼しさから寒さを強く感じるようになってきた、ある日の昼下がり。
ルドは、屋敷の庭で日光浴をしながら本を読んでいるクリスを見つけて、駆け寄った。
「師匠! トリック・オア・トリートです!」
「なんだ? 突然」
「異国のお祭りです。お菓子か、いたずらか、選んでくだ……」
「ほれ」
クリスがどこから出した飴をルドに渡す。
「これでいいか?」
ルドは呆気にとられながら飴を眺めた。そして、口に入れると飴を噛み砕いて飲み込んだ。
「トリック・オア・トリートです!」
「ほれ」
またしても、クリスがどこからかお菓子を取り出してルドの手にのせた。
それも一口で食べたルドは、また先ほどと同じように言った。
「トリック・オア・トリートです!」
「ほれ」
クリスがお菓子を取り出して渡す。これを十数回ほど繰り返したところで、ルドが根を上げた。
「なんで、そんなにたくさんお菓子を持っているのですか!?」
「子どもたちが言ってきそうだったからな。念のために、大量にお菓子を買っておいた」
「それじゃあ、始めからお菓子しか選択肢がなかったんじゃないですか」
ルドが力なく芝生の上に座り込む。
「あーあ、師匠がどんな、いたずらをするか楽しみだったのに……」
ボソッとルドが呟く。その内容にクリスは首を傾げた。
「私がいたずらをするのか?」
クリスの疑問にルドも首を傾げる。
「お菓子がなかったら、師匠が自分にいたずらをするんじゃないんですか?」
「いや、そこは『お菓子をくれなかったら、いたずらするぞ』だから、私が菓子を渡さなかったら、おまえが私にいたずらをするんだぞ」
「そうだったんですか!?」
「勘違いしていたな?」
「はい……なんだ、師匠にいたずらしてもらえるんじゃないのか」
ルドが悲しげな雰囲気になって俯く。ないはずの犬耳がペタリとなり、尻尾が垂れ下がっている幻が見える。
クリスは呆れたように言った。
「なんだ、おまえ。いたずらしてほしかったのか?」
「師匠がどんないたずらをするのか、少し興味があったんです」
そう言うと、ルドは拗ねたように細長い棒菓子の端を口にくわえた。
「いたずら……か。そうだな……ちょっと、こっち向け」
「はひ?」
ルドが棒菓子をくわえたまま顔を上げる。すると向かい合うようにクリスの顔があった。
そのままクリスの顔が迫ってくる。
「はへぇ!?」
驚いたルドの口から思わず変な声が出た。しかし、クリスは気にすることなく、ルドがくわえている棒菓子の反対側を、パクリと口の中に入れた。そして、そのまま手を使わずにポキッと折った。
呆然としているルドに、クリスが棒菓子を食べながら言った。
「いたずらしたぞ。これで満足か? そういえば、そろそろ菓子を補充しないと、子どもたちにやる分が足りなくなるな」
クリスはルドを放置して屋敷へと歩いていった。その途中で、ふと足が止まる。
「もしかして、私はかなり恥ずかしいことをしたのか!?」
今更ながら我に返ったクリスは、自分の行動を思い出して顔を赤くした後、走って屋敷の中に飛び込んだ。
一方、残されたルドは……
「鼻! 鼻が、師匠の鼻と触れた!」
と、自分の鼻の頭を触って悶えていた。
そして、メイド一同は
「はよ、付き合えや」
と、嘆きあった。
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