ツンデレ治療師とワンコ弟子の日常
禅
第1話 ◯ッ◯ーゲームの日
紅葉した木々から葉が落ち、カラフルな絨毯となっている今日この頃。ルドは本を借りるために、クリスの屋敷を訪れていた。
メイドからクリスが中庭にいると聞いたルドは、書庫に行く前にそちらへと足を運んだ。
「師匠!」
クリスは中庭にセットされた椅子に座り、紅茶を飲みながら優雅に読書をしていた。
ルドの声に、クリスが本から顔を上げる。
「どうした?」
「昨日、教えていただいたところについて、もう少し詳しく勉強したいので、本を借りに来ました」
「そうか」
クリスが頷きながら、茶菓子に手を伸ばす。それは、ルドが見たことのない菓子で、細長い棒にチョコレートが付いていた。
細長いシャンパングラスに数本入っており、菓子にしてはオシャレに飾られている。
ルドは菓子を観察しながら訊ねた。
「チョコを食べるのに、なぜわざわざ棒に付けているのですか?舐めとるほうが、食べにくいと思うのですが」
「あぁ、これは食べられる棒でな。こうやって食べるんだ」
クリスの細い指が、棒のチョコが付いていない部分を摘まむ。そして、チョコが付いている方を口に含むと、ポキンと折って咀嚼した。パリポリと小気味良い音が響く。
「なかなか美味いぞ」
そう言いながら、クリスは残りの菓子も口の中に入れた。
「その棒はクッキーのようなモノですか?」
「クッキーとは、また違うんだが……説明を聞くより食べてみろ」
と、クリスはシャンパングラスごとルドに勧めかけて、手を止めた。
「師匠?」
何かを思い付いたようにクリスが菓子を一本取ると、シャンパングラスをテーブルに置いた。
「この菓子を使ったゲームがあるらしいんだが、してみないか?」
「ゲーム……ですか?」
訝しむルドに、クリスが挑発的に口角を上げる。
「ただ食べるのも、つまらないと思ってな。負けた方は勝ったヤツの言うことを、なんでも一つ聞くというのは、どうだ?」
「まあ、別にいいですけど」
「よし。なら、するぞ」
「師匠、どんなゲーム……」
ルドが聞いている途中で、クリスが菓子の端を口に咥えて、顔を突き出してきた。
「ん」
「え!? な、なんですか!?」
慌てるルドに、クリスが菓子を口から外して不機嫌そうに説明をした。
「両端から菓子を食べていって、途中で折ったヤツの負けだ。それぐらい察しろ」
「えぇ!?」
「ほら」
クリスは再び菓子を口にすると、ルドとの距離をつめていく。少しずつ迫ってくる菓子を咥えた口元に、ルドの目が釘付けになった。花弁のように鮮やかな桃色に、果物のように瑞々しく艶やかな唇が迫ってくる。
え!? え!? もし、このまま折らずに食べ続けたら、師匠と口づ……
ルドは自分の顔が真っ赤になっていくのが分かった。
体が硬直しているルドの手に、クリスが指を絡める。
「し、師匠?」
クリスは無言のまま、咥えた菓子をルドの口元へ近づけていく。
こうなったら!
ルドが覚悟を決めたところで、朝を知らせる鐘の音が鳴った。
「…………ゆめ?」
自室のベッドの上でルドは、しばらく呆然としていた。
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