第47話 ─番外─ お盆?

「明けまして、おめでとうございます」

昨夜は激しい運動をして、しかも寝不足の筈だが、美月が清々しい顔をして言う。

「は? お盆なのに何を言ってるんだ?」

「そうはおっしゃいますが孝介さん」

「何だ」

「お正月にはお正月の挨拶があるのに、お盆には何か無いのでしょうか?」

「……」

「盆と正月が一緒に来た、などという言い回しがありながら、お盆の扱いはぞんざいに過ぎると思いますが」

「いや、まあ、でも里帰りしたりもするし、一年の二大イベントじゃないか?」

「だからこそ、ちゃんとした挨拶が必要では?」

「ま、まあ、そうかもな」

「というわけで、まだまだ暑さが続きますが、お体に気を付けて。これからもよろしくお願いいたします」

「こ、こちらこそよろしく」

残暑見舞いが混じったような、何ともおかしな挨拶を交わす。

でも確かに、寒い時も暑い時も体調を崩しやすいものではあるから、相手をいたわるような気持ちは大事かも知れない。

「では、おぎします」

「え、起きて早々に酒?」

「お正月でもよくあることだと思いますが?」

「それはそうだけど……」

「まあいいではありませんか。夏を迎え、夏を見送る節目です。これまでを感謝しつつ、夏を乗り越え、無病息災で過ごせるように祈念きねんしましょう」

「じゃあ一杯だけ」

「ええ、みゃーが帰ってきたら、また」

「また飲むのか!?」

「ええ、毎日が盆と正月のようなものですし」

「お前は毎日を楽しみ過ぎだ!」

「孝介さんのお陰です。ありがとうございます」

美月は真面目な顔をして頭を下げた。

「いや、こちらこそ」

俺も美矢と美月のいる日々と、それを支えてくれる人達に感謝して、しみじみと酒を味わった。

いい一年にしたいなぁ。

暑いけど、何だか正月みたいな気分で過ごしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る