第15話 朝のひととき
時刻を確認すると四時半だった。
窓の外はまだ薄暗いし、あと三十分寝ようと布団を
この三十分というのは微妙な時間で、先ほどまでのような深い眠りに落ちてしまえば一瞬で過ぎてしまうが、かといって頭のどこかでは三十分で起きねばならないと、深い眠りに対してブレーキをかけている。
その眠りと覚醒の
ジレンマが生み出すもどかしさは、誰もが持っているM的な快楽要素なのではあるまいか。
だが、そこに新たな、そしてより明確な快楽要素が加わった。
これは!?
いや、でも、夢を見ているだけではないか?
しかし、夢がここまで明確な快感を連れてくるだろうか?
半分眠っている脳に対して、それは覚醒へと導く刺激でありながら、寧ろその刺激と混ざり合って眠りたい、と思える心地よさでもあった。
これは、多くの男が夢想したことのある、例のアレだろうか?
俺もその夢想をしたことのあるうちの一人であり、その甘美な目覚めを一度は味わってみたいと考えたことはあった。
だが、そんなものは夢物語だ、とも考えていた。
布団にくるまる本体。
布団よりも柔らかく湿ったものに包まれる分身。
我が息子は今、眠っている本体を置き去りにして覚醒し、
イカン!
本体は分身を制御しようと信号を出す。
同時に、もはや制御はままならないと悟った俺は、外的要因を排除すべきだと判断した。
「こら美月ィ!!」
布団をはだける。
え?
悪戯が見つかった子供のような顔で、俺の息子を握り締めていたのは美矢だった。
「ごめん、起こしちゃった」
いや、目覚ましフ○ラをしておいて、起こしちゃったと言われても。
「朝ごはん、用意してくるね」
「え、おい!」
……何たる生殺し。
恐らく悪気など無いのだろうが、置き去りにされた息子が恨めしげに揺れる。
青筋を立てて行き場の無い怒りを爆発させてしまいそうだ。
献身的ないい妻だが、男の生理というものを教えねばならんと思う。
俺は立ち上がることが出来ず、息子がションボリしていくのを
一階に降りると、美月が縁側で日向ぼっこ、というか朝陽を浴びていた。
白いワンピースとかだったら絵になるのだが、部屋着と化した体操服姿なので、今一つ情緒に欠ける。
無理して起きてきたのか、こくりこくりと舟を漕いでいる。
「そんなところで寝てたら風邪ひくぞ」
一人暮らしの美月の部屋で見た憶えがある縫いぐるみ。
それを膝の上に抱いて、一緒にお日様を浴びている様子は微笑ましい。
「あ、孝介さん」
美月は直ぐに目を覚ますと、寝顔を取り
「それ、持ってきてたんだな」
随分と愛されてるようで、ややくたびれた様子のクマさん。
「す、捨てるのも可哀想ですからね。仕方なく連れてきました」
何だか強がる少女のようだ。
朝陽を透かして、髪がキラキラ光る。
「ところで、あそこに転がっている物体は何だ?」
縁側の真ん中付近に、毛布に覆われた何か。
「ああ、あれはいろはさんです」
「何でこんなところで寝てるんだ?」
毛布を被っているとはいえ、さすがに寒いだろう。
「多分、毛布にくるまって星を見ながら眠ってしまったのでしょう」
星……星か。
そう言えば、星を見るのが好きって言ってたな。
俺の田舎の星空についても話したような気がする。
あ、モゾモゾと動き出した。
毛布が朝陽を浴びた山のように
すっぴんの顔は、意外と可愛らしい。
いろはは周囲を見回し、
「な、な、な!」
あたふたと手のひらで自分の顔を撫でる。
「大丈夫だ。問題ない」
そもそも、美矢も美月もすっぴんのことが多い。
何も恥ずかしがることはあるまい。
「ふふ、寝ぼけヅラを
自分のことを棚に上げて、美月は勝ち誇ったように言う。
「うっ、で、でもっ、多摩さんだって寝ぼけてたんじゃないっすか!?」
「
「いや、だって、その膝に抱いてる孝之す──げふっ」
おい、いま
「さあ孝介さん、朝食にしましょうか」
「あ、ああ」
いいのだろうか?
「ね、寝ぼけて、孝之助をここに……」
意味不明なことを
「孝介サ──あれ? なんか欲求不満な顔してません?」
……言うな。
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