新加入……の前の

第1話 まずは信頼できるツテに

 リルノを仲間に入れる云々のお話はとりあえず置いといて、まずはリルノの身体や衣服をどうにかする事が先決だと思った。そこで僕がやってきたのは、王都の端に位置する歓楽街。その中でもとびきりお金が飛び交う、いわゆる『娼館』という所に来たのだ。


「おい、レクア。大丈夫なのか? こんな所に入り込んで。貴族が一夜で破産する街だぞ?」

 マツハの言う事ももっともである。

「そこは大丈夫。まあこっちに来て」

 僕は歓楽街でもトップクラスに入る娼館、その正面入り口ではなく『裏口』に回り込む。普通は関係者以外は使わない所だ。

 そこの前に立ち、ドアをノックする。


トントン トントントントン トントン


 すると、目の高さに付けられた覗き見用のスリット窓が開き、こちらをギロリとにらむ目が表れた。

「誰だい!」

 声は年老いた女性の声だ。この娼館の管理人である老婆のものだとわかる。

「クルファさんのツテです。彼女との面会をお願いします」

 スリット窓から僕の声と姿をゆっくり観察し、ドアが開けられる。

「……入んな。クルファを呼ぶよ」

 僕らは娼館の中に入る。焚かれたこうと石鹸の匂いとが混じり合い、独特の匂いとうっすらとした煙が立ち込めていた。

「うぇえぇぇ。何とも言えない匂いだな」

 口元を押さえるマツハの言葉を受けて、答える声が奥からした。

「あらあら。ずいぶんな言い様じゃないか。レクア! アンタのお仲間さん、女慣れしてないねぇ」

 奥から出てきたのは、脚や肩を出したきわどい衣装にきらびやかなアクセサリーを身に着けた娼婦、僕のツテであるクルファその人である。

「あー。ごめんよクル姉。どうしても頼みたい事があったからさ。失言は、僕の顔で許してほしい」

 あまりいい表情とは言えない微妙な顔で、僕らをにらむ。

「ま、いいさ。レクアには色々世話になっているからね。で、今度はなんだい? あんたが持ってくる頼み事なんて、ずいぶんと珍しいじゃないか?」


───────


 クルファは子供の頃、僕の近所に住んでいて一緒に遊んだ仲だった。三つ年上のクルファは、僕の世話を事あるごとに焼いてくれ、少し成長してからは、僕がクルファの食事を作ったり世話をしていた。

 お互いに親が不在がちな家庭に育ち、お互いに自分の事は自分で出来る、そんな共通項を持つ仲間だった。そしてクルファは成長して、若いうちにしっかり稼げる娼婦という商売を選んだ。そこは抜け目ない性格に裏打ちされたものだった。


───────


 そして後ろに隠れているリルノを前に出し、クルファにお願いを言う。

「彼女の身なりを整えてもらいたいんだ。僕らの所は男所帯だから、女の子の世話なんて出来なくてね」

「ふぅん……」

 あまり乗り気ではないクルファ。そこで僕はクルファにあるものを渡す。金貨。それを三枚だ。

「これは?」

 手渡された金貨を改めて見せるようにして、これはなんだと問う。そこは白々しい問答だ。

「今回の報酬だよ。それだけあれば、充分じゃない?」

 この国では、金貨は貴重だ。貨幣としての価値だけでなく、鋳潰いつぶして娼婦が着飾る服の金糸やアクセサリーにも使われる。この街ではもっともよく使われ、消費されるものだ。


「よくわかってるじゃない、レクア。じゃ、その子の服を見繕って、風呂とかに入れればいいんだね?」

「お願いします」

 クル姉に僕は頭を下げる。それに釣られてリルノも頭を下げる。

「よしわかった! じゃああんた、こっちにおいで!」

 ひとまず、これで大丈夫だろう。

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