第2話 リルノの身なりを整えて

 クルファにリルノの身の回りをお願いして、僕はと言うと、例のオークたちを討伐した報告書を書く事をした。


 娼館の一部屋を借り、文机ふづくえにインクと羽ペン、紙を広げて、とりあえず報告書の体裁を出すための文章をひねり出す。

「時系列順の箇条書きでいいか……」


 隣の部屋では、ゲムじぃが横になって休んでおり、 マツハは風呂を借りて汗を流していた。もちろんこれらはタダじゃない。それなりの札束を渡してある。





───────


 とりあえず報告書がまとまり、封筒に入れた所で、クルファとリルノが戻ってきた。

 リルノには、娼館の下働きが着る丸首のシャツに普通のズボンが着せられていた。肌荒れしていた顔とぴょんぴょんとハネていた髪には、『茶種の油』が塗られ、整えられていた。


 茶には二つの品種があり、ひとつは『新芽を摘み取り精製して茶にするもの』、もうひとつは『花を咲かせて実を収穫してそこから油を搾り取るもの』がある。

 『茶種の油』はとても使い勝手が良く、木工品に塗ればツヤを出し、料理に使えば良い揚げ物や炒め物になり、髪や皮膚に塗れば荒れを治してくれる。

 茶を交易品として扱う、我が国ならではの隠れた名産品だ。充分な量が生産され、価格も安定しており、生活に根付いている。


 わずかに油の香りをさせるリルノは、クルファに向かって頭を下げる。

「ここまでして下さって、本当にありがとう。この恩はどこかで必ず」

「いいってことよ。レクアがちゃんと相応の代金を支払ってくれたからさ。とにかく、自分を大事にしなよ?」

「はいっ!」

 この短時間で、リルノのクルファはずいぶんと仲良くなったようだ。





「で、この子の事、どうするんだい?」

 クルファが僕に訪ねてくる。

「次は、僕のお師匠の所に行ってみるよ。そこでこの子の武器を作ってもらおうと思ってる」

「またお金がかかりそうだねぇ。せいぜい頑張りな」

 クルファが僕に向かって、「やれやれ(汗)」と言いたそうな顔を向けてくる。世話好きな僕の心情を知っての表情だ。

「僕からもありがとう、クル姉。女の子の身の回りなんて、男じゃ出来ないからね」

「何言ってんだい。小さい頃にあたしのパンツを洗ったのは、あんたじゃないか。今さらなお話だねぇ」

「アレは仕方なくだよ!」

 僕の人間性を疑われるような会話が始まりそうだったので、早々に切り上げるように会話を打ち切った。


「さ、次はキミの武器を作ってもらう所に行くよ。ちょっと気難しい人だけれど、信頼できる人だから。それが終われば、落ち着くと思うよ」

 僕は極力冷静な態度でリルノに語りかける。さっきの会話を打ち消すように。

「え……。でもお金が……」

 不安げに語るリルノを安心させるように、僕がさらに言葉を重ねる。

「冒険者になるには、それなりの装備が必要だよ。どこのチームに行くにしても、装備は整えておかないと。損は無いと思うけどね」

 僕の正論にぐうの音も出ないリルノは、渋々うなずく。

「お願い……します」

「じゃあ行こうか」


 この後、リルノに試練が待ち構えているのは、知るよしもない。

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