第5話 ゲムバリ・ヒューリンクラー

 魔術師ソーサラーである、ゲムじぃことゲムバリ・ヒューリンクラーは、過去には輝かしい功績を作り上げた人だ。


 戦場と研究室を往復し、研究に没頭するだけでなくそれを戦場で試し、その効果を様々な同業者に教えていた。


 特に彼が開発した魔法。通常は魔術杖スタッフの先端部から発せられる魔法を、任意の空間に出現させるという方式に変換したのは、彼の多大なる功績のひとつだ。これにより、いきなり大軍の真っ只中に『火球ファイアボール』を発動させて、状況を混乱させるなどの用法がもちいられるようになった。


 そして現在は、長い研究と戦場での戦闘の往復で、身体の節々ふしぶし、特に腰を痛めてしまい、第一線を退く事になった。

 しかしその魔法の腕前は健在なため、以前は勇士七傑ヘプタグラムのチームのひとつに在籍をし、そして今はレクアと共に戦ってくれている訳だ。


──────


「『火球ファイアボール』!」

 ゲムじぃの声に合わせて、僕も呪符をかざす。

「『魔法強化ダメージブースト』!」

 僕のサポート魔法によって強化された火の玉が、マツハを中心に膨れ上がり、爆発した。


ドゴォォォオォォンン!!!


 『シールド』に囲まれた狭い範囲に協力な爆発が起こるのだ。強靭な鱗を持つドラゴンであっても、ただでは済まないだろう。紅蓮の火柱が高々と上がって、すぐさま消えて行く。

 熱と爆風によりオークの群れは、四肢はちぎれ皮膚は焼けただれ、囲んでいた『シールド』に叩きつけられ潰されグチャグチャになっていた。


「マツハ! 大丈夫かい!」

 爆発の中心に居るはずのマツハに、僕は急いで駆け寄る。そこには、防御で顔の前にクロスして腕を重ねた、マツハが立っていた。

「ぶはぁっ! 熱かったー!」

 唐突に動き出すマツハ。

 『火球ファイアボール』の火力が一番発揮されるのは、その球面の外側。その内側に居るマツハには、ほとんど炎の影響は受けてなかった。作戦通りだ。

「あーあ。自慢の髪が焦げちまったぜ。熱い熱い」

 マツハの襟足の部分は兜から出ているため、そこから出ていたプラチナブロンドの髪だけが焦げていた。ほんのちょっとだけ。


「とりあえず無事で良かったよ」

 僕はホッとしてから、一枚の呪符を取り出す。

「さて、火傷してる所を治しちゃおう。『治癒ヒール』!」

 顔や腕など、少し皮膚が出ている所には軽い火傷があったため、僕の魔法で治療した。この程度の火傷なら、呪符一枚で事足りる。


「お前……。『治癒ヒール』まで使えるのか?」

「もちろん。前にも言ったよね、『自分の事が出来て初めてサポートが出来る』って」

 唖然とするマツハを尻目に、治療を手早く終わらせる僕。この程度の火傷は想定内。



「さて、終わったようじゃの。討伐部位を回収して帰ろうかのぅ」

「そうしましょう」

 討伐証明として、オークの鼻を削ぎ落として持ち帰る。ただ、そのほとんどは焼け焦げ、原型を留めていなかった。ゲムじぃの『火球ファイアボール』の威力の凄まじさが如実に現れていた。

「ちょっとやり過ぎたかのぅ」

「まあ仕方ないですよ。確実に仕留める方が優先でしたから」


 そんな訳で、回収したオークの鼻は14個にもなった。報告よりも数が多い。

 これはギルドに報告しとかないとまずいな、と思いつつ、僕たちは帰路に付いたのだった。

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