第4話 マツハ・コード

 マツハ・コードという男は、ある貴族、とは言っても下級の貴族だが、その家に生まれた三男だ。

 長男は家督を継ぐためその家に残るが、三男のマツハ・コードともなると、相続させる資産は無かった。


 早々に見切りをつけたのは正しい判断だと思う。そして有志連合ギルドに入り、仕事として魔物討伐を選んだ。

 彼には、生まれ持っていた才能があった。それは頑強な『体躯』。他人より頭ひとつ高い身長にガッシリとした筋肉質の身体。魔物討伐にはうってつけだった。


 そしてその身体の頑丈さを武器とし、厚手の布の服の上に鎖帷子チェインメイルを着込み、さらに金属鎧プレートメイルを着て凧盾カイトシールド大斧グレートアックスという、ガチガチに防御に特化した装備を揃えた。

 彼の役割はチームの壁。前線に立ち敵の標的にわざとなって攻撃を集め、他のメンバーが立ち回るスキを作るのだ。


──────


 現在僕のいるチームでも、その壁としての役割は重要で、今回の作戦でもかなめとなっている。


 独りだけ城壁の外側に仁王立ちしているマツハ。その視線のすぐ向こうには、近づく魔物の群れが確認できる。


 もうすぐ戦闘になる。しかしマツハはほとんど攻撃しない。なるべく守りに徹してもらうのだ。そのためのサポート魔法なのだから。






 オークの群れがマツハを視認すると、マツハを囲むように散開してくる。

「おぉら! どうしたテメェら! 遠慮しないでかかって来いやぁ!」

 マツハの怒声を契機にして、オークたちがマツハに向けて駆け寄る。手に持った手槍や手斧で、全方向からガンガンと叩かれる。しかし『シールド』のサポート魔法と頑丈な金属鎧プレートメイルにはばまれ、マツハには一切のダメージは与えられない。


「はっはー!!! その程度かテメェら!」

 オークの群れを威嚇するように、大斧グレートアックスを横なぎに振り回す。もちろんダメージを与える必要は無く、敵たちを煽るためのパフォーマンスだ。


 そんなやり取りをしていると、ひときわ体格の大きなオークが、マツハの前に進みでる。鼻息も荒く、地面をダンダンと足裏で踏み締めた後、力まかせのショルダーアタックでマツハに突進する。

「ドズムッ!!!」

 『シールド』で防御をしているものの、その圧力にわずかにマツハの体躯は後ろに下がらされる。


「おお? なかなか骨のあるヤツがいるじゃねぇか。力比べなら受けて立つぜ!」

 マツハも負けじと押し返す。その力は『シールド』を挟んで拮抗していた。


──────


 その一方、僕とゲムじぃは城壁の裏側で、事の動向を見定めていた。

「敵がマツハに集中してきています。ゲムじぃ、そろそろ」

「よしきたぞい!」

 ゲムじぃが『火球ファイアボール』の呪文を唱える。その威力を高めるため、通常の呪文詠唱よりかなり長めだ。


 そして僕は『シールド』の呪符を八枚用意して、機会を伺う。敵のオークの群れがマツハに完全に集まるのと、ゲムじぃの『火球ファイアボール』の詠唱が終わるタイミングを見計らっているのだ。


「よし今だ! 『シールド』!!!」

 オークの群れをマツハごと囲むように『シールド』を展開する。これで逃げ場は無い。


「ゲムじぃ!」

「……抱擁を以て召されよ! 『火球ファイアボール』!!!」

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