新たな門出

第1話 また茶摘み

 例の勇士ロームのチームから離脱した数日後、僕らはまた茶園に戻っていた。僕が受けた依頼の期間がまだあり、仕事が完了していないためだった。

 そんな訳で、今日も茶摘みに励んでいる訳で。ただ、ゲムじぃは腰が悪いので、中腰の作業は出来ないから、僕とマツハの二人で茶摘みを行っている。


「お前、よくこんな細かい仕事やってられるよな。くそっ、細かくてイライラする!」

「あーあー。雑に扱っちゃダメだよ。ひとつひとつ丁寧に切り取らないと。ほら、その葉の下の所をチョンって」

 僕のアドバイスの通りに、茶の新芽を切り取るマツハ。普段は大雑把な性格なだけに、こういう細かい仕事は苦手なようだ。茶の新芽を摘まむには大きな手が、かすかに震えていた。


「ふぅぅぅ。なかなか大変だな。お前こんな仕事もやってたのか。すげぇな」

「慣れれば、誰でも簡単にできる仕事だからね。それに、人手はいくらあっても足りないくらいだし」

 そろそろ日没という所で、仕事は終了。マツハの摘んだ茶葉は、カゴひとつに山盛り一杯。僕の方はカゴふたつに山盛りの茶葉。仕事量は一目瞭然。まあ、慣れてないから仕方ない。


 製茶所に向かい、摘んだ茶葉を係員に渡して換金してもらう。僕の方は、いつもの札束三束。マツハの方はと言うと、札束半分ほどだった。


「え? ちょっと計算が合わなくないか? 茶葉の量が少ないのは認めるが、それでも半分の量だから札束が一束半じゃないのか?」

 マツハが不満の声を上げる。それは確かに納得が行かないだろう。しかし、そこには明確な違いがあるのだ。

「マツハの摘んだ茶葉は綺麗だけど、僕の摘んだ茶葉って、ちょっと『虫食い』があるのはわかる? これがコツなんだ。お茶農家さんでも言われてる言葉だけど、

『人が飲んで美味しいお茶は、虫にとっても美味しい』。

虫が多少食べている茶葉の方が、美味しいお茶になるのさ。そこを見極めるのもコツだよ」


 そんなウンチクを語る僕をジト目で見るマツハ。「そういう事は早く言って欲しかった」、という不満の視線だ。





 そして宿舎に戻ろうとした時に、周りの人たちから声が上がる。

「号外だってよ! 号外!」

 何か事件でも起きたのだろうか。新しく刷り上がった紙を渡される。そこにはこう書かれていた。

「なになに。『勇士七傑ヘプタグラム』の一角、勇士『ローム・アダルシア』死亡じゃと!!!」

 老眼で目を細めながら読み上げたゲムじぃが、語尾を上ずらせた。確かにショッキングな見出しだった。

「えーと? 死因は子供のゴブリンの手槍による刺し傷。そこに毒が塗ってあったらしく、戦闘直後に昏倒。そのまま息を引き取る……か」

 淡々と読み上げるのは、マツハ。ちょっと興味深そうだった。


 そんな僕は、何の感慨も湧かなかった。いずれはこんな日がくるだろうな、という予想はできていた。そういう戦い方をする人だったから。


 僕はまだ興味がありそうなマツハに号外を渡し、明日の準備に取りかかる。

「明日で依頼の仕事は終わりです。今日はお茶を飲んで、ゆっくり休みましょう」

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