第10話 開戦!

「グガオォォォォッ!」

 オーガの咆哮ほうこうと共に、一斉に魔物の群れがこちらに向かってくる。それに応じて、僕はまず5枚の呪符で魔法を展開する。

「『シールド』!」

 僕以外のチームの各人に、1枚ずつ魔法の障壁が展開される。

「おい! なんだこの『シールド』は? やめろレクア! 死ぬつもりか」

 声を荒げて重戦士へヴィウォリアーのマツハがこちらに声をかける。ダンダンとこぶしで魔法障壁を叩くも、こちら側には手出しが出来ない。もちろん攻撃も防いでくれる。


 改めて僕は魔物の群れに向き直り、さらに7枚の呪符で魔法をかける。

「『速度スピード』!!! 『ストレンクス』!! 『武器強化エンチャントウェポン』!!」

 僕の身体が淡い魔法の光に包まれる。右手に持った短刀は、その刃の輝きがさらに増して凶悪なまでになっていた。


 そこから僕は魔物の群れに単身突っ込む。

「な……、早」


 ザシュ! ザシュ! ザシュ!

 ドスッ! ズボッ

 タタターン ストッ

 ドッ! グッグッ ズボッ

 ヒュン スタッ


 まばたき数回で、すべての行動が終わった。僕がやった事をすべて解説すると、


 向かってくるホブゴブリン三匹の喉を、すれ違いざまに切り裂き、ゴブリンシャーマンの喉に短刀を突き立て、すぐに抜いてさらに突っ込む。

 オーガの右側の岩壁を『ストレンクス』の効力で駆け登り、オーガの右肩に足をかける。

 こちらを向く前に、頭蓋骨と頸椎の隙間、『延髄えんずい』に短刀の刃を滑り込ませ、前後に動かして完全に切断する。回復力の強いオーガであっても、中枢神経の回復はできない事は証明されている。そこに致命傷を与えたのだ。

 後は地面に降り立つだけ。


 ズズゥン!!!


 こちらが体勢を整えた後で、やっとオーガの巨体が崩れ落ちる。

 ほんの少しの時間で、僕独りで、魔物の群れを討伐してしまったのだ。これも、三重にかけた最強度の『速度スピード』のおかげだ。勇士チームの誰も、僕の動きを目で追えていなかった。


 最後に、討伐の証として、ホブゴブリンとゴブリンシャーマンはその片耳を、オーガは額に生えている二本の角のうち一本を切り取り、討伐完了だ。短刀についた血糊を、肘の内側でぬぐって鞘に納める。


「さて、帰りましょうか。こんな所に長居は無用です。脱出用の巻物スクロールを」

 僕の声にハッとなり、ゲムじぃが慌てて懐から巻物スクロールを取り出す。僕はそれを受け取り、広げて魔力を込める。すると暗い岩壁の地下迷宮ダンジョンの風景は歪み、光あふれる荒野に変化する。地下迷宮ダンジョンの入り口まで戻ってこれたのだ。


「ふぃー。窮屈だったぞなー」

 身体を伸ばして腰を回すゲムじぃ。相変わらずのマイペースである。そんないつもの言葉に日常を感じ、戻ってこれた事を実感する。


「さあ、帰りましょう!」

 僕は意気揚々と歩き出した。



────────



「なあ、何でそこまで強いのに、お前はサポート役にまわってるんだ? もっと活躍できるだろ?」

 不思議そうに僕に問い掛ける重戦士へヴィウォリアーのマツハ。その問いに対する返答は、


「だって、自分の事ができるからこそ、周りの人のサポートができるんだよ? 自分の事ができて、やっと周りの人たちに目を配る事ができる。魔物討伐も家事も、同じだよ」


 うつむきながら「くっくっ」と笑いを噛み殺すマツハ。

「お前にとっては、魔物討伐も家事も同列かよ。恐れいった」


 こうして、一悶着ひともんちゃくは終了したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る