第9話 ある提案

「わかりました。行きましょう」

 そう言って、差し出された巻物スクロールを受け取る。おそらく、勇士のチームが現在いる所に転移できるのだろう。

「ふぅ……。これで私の仕事は終わりですね。あなたも気をつけて下さいよ。また、語気を荒げて威圧してきますからね」

 心底ホッとした表情を浮かべる魔術師ソーサラー。その気苦労も、僕はわかっているつもりだ。

「そちらもお疲れ様でした。まあちょっと考えがあるので、うまくすれば黙らせる事ができるでしょう」

 すでに装備は整っているので、このまま出発して大丈夫だ。僕は巻物スクロールを広げ、魔力を込める。すると、製茶所だった風景は徐々に歪んでいき暗くなり、ゴツゴツした岩肌が目の前にそびえる地下迷宮ダンジョンへと変化していった。


 転移が終わって巻物スクロールを巻いて片付けると、左から声がかかる。

「やっと来やがったか……。はぁ。丸1日待たせやがって……」

 これ見よがしに悪態をつく勇士ローム。他の面々の装備を見ると、その一部が壊れていて、僕がいなかった時の荒れた状況がすぐにわかった。


「おら、行くぞ」

 ぶっきらぼうに言う勇士ローム。それに反論しようとする軽戦士ライトウォリアー治療術師ヒーラー

「もうやめましょうよ。魔術師ソーサラーがひとり入った所で、今の状況じゃ戦えないわ」

「そっ、そうよ。帰りましょ!」

 怯えながら言う二人に、ギロリとにらみを利かせて、さらに先に進む勇士ローム。彼の装備も充分くたびれていた。


「みなさん、提案があります」

 先に進む前に、言っておく事がある。僕はみんなに聞こえるように、少し大きめに声を上げる。

「なんじゃな? レクアから提案とは珍しい」

 助け船を出してくれる、魔術師ソーサラーのゲムじぃ。僕に言葉の先を話すよう促すように、手をあおいで合図を送る。

「みなさんには見届け人になってもらいます。つまり、『一切の手出しは無用』です」


 あんぐりと口を開けて驚いた一行だが、すぐに次の言葉を勇士ロームが吐き出す。

「なんだ? 手前てめぇひとりでやるってのか? いい度胸してんじゃねぇか。やれるもんならやってみやがれ」


 この後は、地下迷宮ダンジョンボスだけ。その魔物たちを討伐すれば終わりのはず。そしてみんなの疲労具合から、僕ひとりだけで討伐することを提案したのだ。

「いやだが、残っているのは『オーガ』だ。他にも取り巻きの魔物もいるだろう。お前ひとりじゃ無理だ」

 至極もっともな正論を言う重戦士へヴィウォリアーのマツハ。だが、僕は自信を持って冷静に反論する。

「今のみんなの疲労具合では、足手まといにしかなりません。ここは僕に任せて休んでいて下さい」

「へっ、休んでろってよ! ずいぶん偉くなったもんだなぁ。じゃあ頑張ってくれや」

 なげやりな勇士ロームの言葉で決着がつき、僕ひとりでボスとの戦いをする事が決まった。



─────



 しばらく地下迷宮ダンジョンを進むと、大人三人が並んで通れる幅の回廊に出る。その先に見えているのは、筋骨隆々なオーガ一匹にホブゴブリンが三匹、ゴブリンシャーマンが一匹の魔物の群れが居座っていた。

 ヤツらがこの地下迷宮ダンジョンボスだ。こちらの松明の灯りに気が付き、すでに臨戦態勢に入っている。もう後戻りは出来ない。討伐するのみだ。

「グガオォォォォッ!」

 開戦の宣言を、オーガの叫び声が上げた。

 

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