第7話 その頃の勇士たち

 僕が真面目にコツコツと茶摘みの仕事をしているその頃、僕がクビになった勇士ロームのチームは、地下迷宮ダンジョンにて魔物討伐の依頼を受け、その中に潜っていた。


 でっぷりとした太鼓腹を晒し棍棒を持って対するのは、ホブゴブリンが五匹。普通の勇士なら、それほど手こずる事も無く撃退できるはずなのに、今は僕が抜けたため、歯車が噛み合っていないのが実情だった。

「おい! 盾だ! 早くしろ!」

「……そも身の……我は……」

「おいいつまでかかってんだ! くぅっ」

 ホブゴブリンが力任せに棍棒を叩き付け、それを剣で何とか防いで、同じく力任せに押し返す。

「くそっ……。もういい! 武器強化をよこせ!」

「……全て……奉る。『シールド』!」

「今さら盾は要らねぇんだよ! 何チンタラやってんだ!」

 終始、怒鳴り声を上げ続ける勇士ローム。自分の動きについて行けてない魔術師ソーサラーに、悪態をつく。



─────



 苦戦しつつも何とかホブゴブリンを撃退し、一休みするチーム。もちろん勇士ロームはおかんむりなので、新しく入った魔術師ソーサラーに詰め寄り、やおら胸ぐらを掴む。

「何だってテメェの魔法はいちいち遅ぇんだよ! チンタラやってんだったら、要らねぇよ!」

「ちょ……ちょっと待って下さい。強力な『シールド』の魔法を張るには、それなりに長い呪文の詠唱が必要になってきます。あれ以上早くするには詠唱を短くせざるをえず、弱い『シールド』しか張れません」

「んだよ……。くそっ、使えねぇ」

 胸倉を掴んでいる手を離し、吐き捨てるように勇士ロームがこぼす。

 しかしその魔術師ソーサラーの言葉を受けて、重戦士ヘヴィウォリアーのマツハは疑問を言葉にする。

「じゃあ、何であのレクアは、呪文詠唱ほぼ無しで強力な『シールド』を連発できたんだ?」

「そんなのあり得ません。呪文の詠唱無しに強力な魔法を使うのは、物理的に不可能です」

 魔術師ソーサラーが必死に弁明する。それはそうだ。それなりのレベルであるはずの自分の能力を上回る仕事を要求され、困惑しているのだ。

「そういやアヤツ、夜中にコツコツと何か紙に書いておったわぃ。何かの呪符のようなものじゃったな」

 少し話題をずらそうと、攻撃魔法専門の魔術師ソーサラー、ゲムじぃことゲムバリは口を差し挟む。

「強力な『シールド』……夜中に書いていた呪符……。まさか、通常の魔法に『呪符魔術』まで複合させている?……」

 ブツブツと独りごちる新入りの魔術師ソーサラー。そんな彼の中で、ある考えが浮かんだ。

「『詠唱転写符えいしょうてんしゃふ』? まさかそんな高等な複合技術を使っているのか? いや、そうとしか考えられない……。それなら説明がつく」

 その独り言に、ゲムバリが改めて問い直す。

「何じゃね? その『詠唱転写符えいしょうてんしゃふ』というのは?」

あらかじめ、魔力を込めた呪符の上に呪文を書いておいて、短い宣言だけで魔法を発動させる、というものです。これを使えば、呪文の詠唱はほぼキャンセルできます。みなさんの口振りからして、事前に数十枚の呪符を用意していたものと思われます」


 今までの戦闘と周りのメンバーの口振りを分析して、答えを導きだす魔術師ソーサラー。それから追加で、ある提案を言葉にする。

「申し訳ないですが、あなた方の要望する仕事は、私にはできなさそうです。この場にて、私は辞めさせて頂きたい」

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