第5話 クビ

 日が代わり、先日の魔物討伐が完了した後、僕はさらに他のメンバーの武器や防具の手入れを続けていた。

「よし! こちらのショートソードの砥ぎも終わり。後は水分を拭き取って……と」

「あんちゃん。こっちの鎖帷子チェインメイルも、直し終わったぞ。これで仕舞いだな」

「ええ。ありがとう御座いました。では、代金はいつもの通り、勇士さまの口座から引き落としで」

 こうして、1日の半分が終わろうとしていた。後はチームに合流し、装備品を渡すだけだ。





「ちっ……気に入ンねぇ……」

 ボソッとつぶやく勇士七傑ヘプタグラムの一人、ローム・アダルシア。僕の今の雇い主だ。その彼が不満げに舌打ちをする。つぶやく声は小さく誰にも聞こえない。

 今の彼らは、僕が持ってくる装備品を受け取るため、有志連合ギルドの待合室にいる。通常は誰でも使える待ち合わせ場所だが、今回は彼らが場所を独占していた。

 そこに僕が入る。背中には、修復した装備品を麻袋に入れて担いで。部屋に入った瞬間に、何かイヤな予感めいたものがした。空気感が違っていたのだ。


「すいませんお待たせしました。武器・防具、手入れは済ませておきました。消耗品も追加してあります」

 極力そのイヤな空気を感じていない風を装い、彼らの目の前に装備品をソッと置く。その時に、勇士ロームが口を開いた。

「おい、レクア」

「……なんでしょう?」

 気難しい勇士ロームの表情を観察しながら、僕は返答した。

「お前、クビな」

 唐突な解雇宣告でした。訳もわからず頭の中にハテナマークが乱立し、「一体なぜ?」と問う前に、勇士ロームが愚痴ぐちめいて話を始めた。

「前回もその前もそう。俺の言う事にことごとく楯突きやがって……。俺の言う事を聞かない、お前みたいに生意気言うヤツ、置いとく理由も無いわ。クビだクビ」

 あまりに唐突に言うものだから、周りのメンバーも驚いた顔をして、口をパクパクしていた。おそらく、誰にも相談していなかったのだろう。


 僕はその場で姿勢を正し、勇士の真正面で気を付けの姿勢をとる。

「わかりました。お世話に……なりました」

 深々と頭を下げる。

 それを見て、さらに他のメンバーも呆気あっけに取られた表情をする。「もうちょっと交渉しないのか?」と言わんばかりだが、ここでゴネた所で僕に利益が無いのは明白だ。素直に引き下がった方が、波風立たないでチーム内も安定する。そう思った打算の行動だった。



──────



 そんな訳で現在、僕はその部屋を退席し、有志連合ギルドの窓口に来ている。ようは無職になってしまったのだから、他の仕事を紹介してもらわないと。

「って事でクビになっちゃいまして、仕事を紹介して欲しいんですよ」

「はぁ、それは大変でしたねぇ。心中お察し致します」

 受付窓口の品の良いおじさんに事情を説明し、別な仕事を回してもらう相談を。おじさんも、僕の愚痴ぐちをイヤな顔をする事無く聞いて同情してくれる。ちょっと救われる思いだ。


 ふと壁を見ると、農業ギルドの依頼書が張ってあるコルクボードの中に、見慣れた文字を見つけた。

「あ……。じゃあ、この仕事をお願いしますね」

 それは農業ギルドの仕事で、内容は『茶摘み』。以前もやった事のある、馴染みの仕事だった。




────────




「おい! 本当にアイツをクビにしていいのかよ! 何をするにしてもアイツのサポートが必要だったのに」

「ワシも同意見じゃな。クビにすれば不都合が出るだけじゃ」

「ゴチャゴチャうるせぇな! 代わりのヤツを雇えば平気だろ? 気にすんなよ」


 そんな会話が後からされていたのは、僕の預かり知らぬ所。

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