第44話
「金太くんにはいわずにアメリカに行くことになってしまって、それも3週間と長いからその間宿題で時間を潰してもらおうと思って、あのメモを遺しておいた。どうだね、書いてある謎が解けたかな?」
「はい、わかりました。……でも、ぼくひとりで解いたんじゃないんです。この4人で解いたんです」
金太は、老人の顔を見て正直に打ち明けた。
そのとき君代さんがアイスティと、アメリカ土産のマカダミヤナッツのクッキーをテーブルに置いた。
「さあ、咽喉が渇いただろ、飲みながら聞こう」
河合老人は少し前に移動して、アイスティのグラスを手にした。
「つまりみんなで出した答えは、『愚公山を移す』でした」
すべてを自分がやったわけではないからか、金太はやや俯き加減で答えた。
「そうか、よく解けたな。感心、感心」老人は満足げな顔でグラスをコースターに戻した。「それで、そのことわざの意味もちゃんと理解したのかな?」
「はい。こつこつ地道に頑張れば、やがて目的を成し遂げることができる、という教えだと思います」
「金太くん、いや君たち3人にもいえることだが、これから受験のために一生懸命勉強しなければならないだろうけど、毎日少しずつ努力を積み重ねれば、必ずいい結果が現れる。それを信じて頑張りなさい」
「はい」
4人は声を揃えて返事をした。
「だが、よく答えに辿り着いた。たいしたもんだ」
「答えを導き出せたのは、ここにいるノッポお陰なんです」
「ノッポ? ノッポくんっていうのかい?」
「ニックネームです。本当は柳田トオルといいます」はじめて口を開いたノッポは、ガチガチになっている。みんなと話しているときとは別人のようだった。「でも答えに至ったのは金太の『1.0CM』というヒントをくれたからです。もしあれがなかったとても解読することはできませんでした」
「そうか、君たちはいい仲間なんだな。これからもずっとその関係を大事にしなさいよ」
「はい。あのう……もしよかったら、みんなに大きな庭を見せたいんですけど、だめですか?」
金太は恐るおそる老人に訊いた。
「ああ、全然構わんよ。好きなだけ見たらいい」
老人はソファーから立ち上がると、庭に出るガラス戸のところで、
「下履きが足らないから、靴を持ってらっしゃい」、と振り返っていった。
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