第43話

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「ボラーァ」

 日曜日の午前中、金太の家に集まったノッポ、アイコ、ネズミの3人は、それぞれ何らかの口実を拵えて家を出て来たのか、爽やかな表情で挨拶を交わす。

 金太が家から出て来るのを待って、お爺ちゃんの家に向かって自転車を走らせる。

 夏休みも残りわずかになったが、相変わらず真夏の陽射しは斟酌がない。だが、この4人にはそんなこと意に介さなかった。

 河合邸の前まで来ると、金太がブレーキをかけた。連れて後続の3人もスピードを緩める。つかつかとインターホンのところまで行った金太は、ボタンを押す前にみんなの顔を見て1度頷いた。

 インターホンの向こうで返事があったきりその後なんの言葉も発されなかった。小首を傾げながら金太は何度も呼びかけた。

 しばらくして足音が聞こえ、同時に重い正門がゆっくりと開いた。長い間開閉されたことがないのか、少し耳障りな軋み音がした。

「さあ、こちらから」

 首だけ覗かせた君代さんが笑顔で迎えてくれた。

 金太たちはおずおずと自転車を押して邸のなかに足を踏み入れた。これまでこんな大きな邸に縁がなかった3人は、あまりの大きさに目を丸くしながらアプローチを玄関に向かって歩いている。まるで別の世界にいざなわれたようだった。

 君代さんに促されて玄関に入ると、すでに河合老人が出迎えてくれていた。

「やあ、金太くん久しぶりだね」

 河合老人は、室内用のステッキに両手を重ねて目を細めながらいった。

「お久しぶりです。きょうはぼくの友だちも一緒です」

 3人は揃って頭を下げる。

「おうそうか。さあ、遠慮しないで上がりなさい」

 老人は先になってリビングに向かった。

「ひょっとして、私が留守の間に電話したかい?」

 ソファーに腰掛けた老人はまるで孫と話しているようだ。

「はい、2、3度かけました」

「そりゃあ、わるいことをしたね。じつは、3週間ほどニューヨークの息子のとこに行ってたんで、この家には君代さんもいなかったんだ」

「3週間もですか?」

「そう。最近めっきり足腰が弱くなってね、これが最後と思って思い切って飛行機に乗ったんだよ」

「楽しかったですか?」

 金太は、河合老人があまりにも嬉しそうに話すので、つい訊いてみたくなった。

「ああ楽しかったよ。海外旅行をするのもだが、久しぶりに孫の顔も見れてよかった。いちばんよかったのは、20年近く外国に行っていた息子がようやく日本に帰ることが決まったことだよ」

「じゃあ、お爺さんと一緒に暮らせるということですか?」

「ああそうだよ。やっとこの家で孫たちと一緒に余生が送れる」

「よかったですね」

 金太は自分のことのように嬉しかった。

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