第40話
「ああ、そしたら、いきなり『スキュタレー』という項目が現れたから、ぼくは目ば疑ったト」
ノッポはスマホの画面で見つけたときのことを思い出しながら話す。
「そのスキュタレーってなんなの?」
アイコははじめて聞く言葉に違和感を持った。
「簡単にいうと暗号解読器なんやけど、古代ギリシャ時代から使われとって、聞いたらびっくりするくらいシンプルやよ。なんやと思う?」
ノッポはもったいぶってなかなか核心に触れようとしない。
「いいから、早く教えてよ」
苛立つアイコは語気が強くなる。
「わかった、わかった。それは、ただの棒なんだ」
ノッポはメガネを押し上げながらいった。
「ただの棒なの? どこにでもある」と、ネズミ。
「うん。その昔、戦術を連絡するのに羊の革に文字を書き込んで相手に渡すんやけど、そのまま渡したら、もしそれを敵に奪われたら大変なことになるやろ。そこで、革を棒に巻きつけて文字を書くと、革を伸ばしたときなにが書いてあるのか判読不明になる。ばってん、同じ太さの棒ば持っとると、文字の書かれた革をまきつけることによって伝令が伝わるって寸法だ」
「なるほど」
感心した金太は目を大きくして何度も点頭した。と同時に、わずかなヒントでそこまで調べ上げたノッポをまたまた尊敬した。
「それをヒントにして、あの『1.0CM』というんが棒の直径じゃなかと考えた」
「それで暗号は解けた?」
ネズミが嬉しそうな顔になって訊く。ようやくわけのわからない呪縛のようなものから解き放たれる気がした。
「いや、金太のいった軸径1.0センチのマーカーペンでやってみようと思ったんやけど、爺ちゃんが金太に遺したメッセージの原本がなかったからせんやった。ばってん、金太はあの細長か紙は持っとうト?」
「あるよ」
金太は机の引き出しからクリアファイルを取り出すと、2センチ幅の細長い紙をみんなの前に伸ばした。
「よし、これをマーカーペンに巻きつければ、きっと糸口が見つかるけん、楽しみにしんしゃい」
そのとき、階下から金太たちを呼ぶ母親の声が聞こえた。
「みんな、昼飯ができたらしいから、食べてからノッポが閃いた実験をしてみよう。さあ、腹が減ったからメシ、メシ」
金太はみんなを引き連れてダイニングに向かった。
テーブルの上には、人数分のオムライスが並んでいた。
「急いで拵えたから、おいしいかどうかわかんないけど、冷めないうちに食べて」
サラダボールをテーブルの真ん中に置きながら母親はいった。
金太が真っ先にスプーンを持つと、ほかの3人も同様にしてオムライスにロックオンし、いっせいにカッ、カッとスプーンの音を響かせた。
4人が食事にかかった時間は5分となかった。席を立った金太はリビングに行き、戻ったときには4本のマーカーペンを握っていた。
「さあ、実験に取りかかろうぜ」
あまりの性急な食事の有様に、2階に上がろうとする子供たちの背中を見て、母親は洗いかけの皿を手にしたままあんぐりと口を開けていた。
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