第39話
「いいわよ。まず私からでいい? 結論からすると、解読できなかった。でも誤解しないで。なにもしなかったわけじゃないわ。ひょっとすると意外なところに抜け道があるかもしれないと思って、金太が暗号の下に書いた『スイカツラの憂い……』からはじまる文章に注目して、そこから分析してみたの。
まず、『スイカツラ』は『スイカズラ』ともいって、抗菌・解熱に効く植物で、花言葉は愛の絆・献身的な愛……私が気になったのは友愛という花言葉だった。なぜかというと、中3の金太に宛てたメッセージなんだから、やはり友だちへの愛、つまり友愛が妥当なとこだと思った。
次に、『憂い』は心の痛みというとこかしら。『過ちと病めば』はそのまんまで、最後の『仔牛も騒ぐ』のなかの『も』という助詞なんだけど、『仔牛も』という以上ほかにも騒いでいるものがいるんじゃないかな、それを探ってみようと思った。……でも結局なにも見つからなかった。ごめん」
アイコはみんなに向かって頭を下げた。
「いいんだよ。オレのためにそれだけ調べてくれたんだ、感謝、感激だよ」
結論は出なかったが、金太はアイコが自分のためにそこまでしてくれたことが嬉しかった。
「金ちゃん、ごめん。正直いってぼくなにもわからなかった。一生懸命考えたんだけど、アイコさんと違って糸口さえ見つからなかった。本当にごめん」
ネズミが躰をふたつに折るようにしながら謝った。
「だから、いいんだよ。だって、本人のオレだって解読できなかったんだもん。それにどうしても解かなきゃならないもんでもないしさ」
そのとき、部屋のドアがノックされた。急いで開けると、お盆に麦茶と、さっきノッポのお土産の饅頭を載せた母親が立っていた。
「遅くなってごめんね。これトオルくんにもらったお饅頭だけど、みんなで食べて」
母親そういいながら勉強机の上に置くと、気を利かせたのか振り返ることなく部屋を出て行った。
4人は冷えた麦茶で咽喉を潤し、饅頭を頬張った。その黙々とした時間が、時計のない国に迷い込んだと錯覚するほど長いものであることを感じたのは金太だけではなかった。
「ぼくさァ」
満を持していたようにノッポが神妙な顔で話しはじめた。ほかの3人が同時にノッポを見た。
「どうしたんだ?」と、金太。
「うん、福岡に行く前に金太がメールばくれたやろ。『1.0CM』が長さとか直径だとかっていうメール。そこでインターネットの検索でめくら滅法思いついた文字を打ち込んでみた。まず『暗号 直径』と入れた。すると、いきなりすごいことが画面に出て来たんや」
「すごいこと?」
それを聞いただけで金太は、自分が思いつかなかったことを見つけたノッポを尊敬した。
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