第38話
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ジィ、ジィ、ジジージ。
耳の奥で耳鳴りのように聞こえるアブラ蝉の鳴き声で目を覚ました。
どうやら窓のすぐ外で残り少ない時間を嘆いているような鳴き声だった。
眠い目を擦りながらベッドから出た金太は、窓際に立ってガラス窓の桟をドンと叩いた。
ジィーイーイ。
愕いた蝉は、嗄れ声を残してどこかに飛び去って行った。
きょうは、待ちに待ったメンバーが家に来る8月20日の水曜日だった。
机の上の置時計を見るとまだ7時半を過ぎたばかりだ。みんなが来るのは10時だからずいぶんと時間はある。
歯を磨き、朝食をすませた金太は部屋に戻ると、目につくところから片づけはじめた。
散乱した雑誌、脱ぎ捨てたTシャツ、ぱっかりと口の開いた手提げバッグ。
いつもなら母親にいわれて渋々掃除をする金太だが、きょうばかりは楽しくて仕方ないといった顔で片づけている。ひととおり部屋が奇麗になると、階下から掃除機を持ち込んで床の仕上げにかかる。金太が自分の部屋に掃除機を持ち込んだのは、これまでに1度か2度くらいしかない。
慣れない手つきだったが、汗まみれでやった成果があって、まるで別の部屋のようになった。
玄関のチャイムが鳴ったのは約束の10時になろうかというときだった。
金太は、玄関ドアを開けた瞬間、そこに立っているのがノッポじゃないのに愕き、一瞬声を呑んだ。
「ボラーァ」
袖なしの白いTシャツに短パン姿のネズミが思い切りの笑顔で立っていた。
「ボラーァ、ネズミじゃないか」
金太はまったく予想外だというような顔でいう。
「どうして?」
ネズミはわけがわからないといった顔で金太を見返す。
「いや、なんでもないよ。さあ、入れよネズミが1番なんだ」
「珍しいね、いつも時間に正確なノッポさんが遅いなんて」
ネズミは金太のあとについてリビングに向かった。
ネズミがソファーに座るか座らないうちにノッポもアイコも姿を見せた。
「これ、博多の土産ばい」
ノッポが差し出した手提げには、「博多通りもん」と書かれた包み紙が入っていた。
「サンキュ。あとでみんなで食べよう」
金太はみんなを引き連れて2階に上がる。
ネズミは何度か来たことがあるが、ほかのふたりははじめてだった。
エアコンの効いた部屋に招き入れると、所在なげだったアイコが椅子に座り、ノッポとネズミがベッドの端に腰掛けた。金太は畳の上にどかりと胡坐をかく。
「さっそく本題に入るけど、いい?」
金太は順番にみんなの顔を見る。
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