第35話 第3章 暗号解読
1
「なに、あのふたり、キモォ」
夕方になって増美は2階から降りて来ると、リビングのソファーに並んで座っている父親と金太を見ていった。
「お昼からずっとあんな調子」
「あのふたりプールに行ったんじゃなかったの?」
増美はいつになく気にしている様子だ。
「なんか湘南に向かって走ったらしいんだけど、途中で気が変わって引き返したみたい」
「ふーん。変なの」
増美はこんなふたりの姿をいままで見たことがなかったので、少し嫉妬の気持になった。
テレビの天気予報を観ていた父親に金太は訊いた。
「ねえお父さん、もしあの数字が直径だとしたら、1.0センチの直径のものってなにがある?」
「そんなもの身の回りにはいくつもあるさ」
父親は少し面倒臭そうに返事をしたのだが、ふと我に戻って金太のほうを向いた。
(こういった些細な態度を子供は敏感に感じ取るのかもしれない)
「例えば……」しかしすぐには思い浮かばなかった。
1.0センチの直径は感覚的にどれぐらいかということはわかっているのだが、人間の目というものは思うほど正確ではない。
父親は独りごちるようにいったあと、リビングを出て行った。しばらくして戻ったときには左手に手帳のようなものを持っていた。
「なに、それ」
金太は父親のすぐ横に座って覗き込む。
「これは工具メーカーが営業用に配ってる業界手帳だよ」
目次を探して目的のページを開いてなにかを探しているようだ。
「その手帳になにが載ってるの?」
「しっかり見たことはないんだが、確かここに配管サイズの一覧表があったはずなんだ」
「配管のサイズ?」
「そうだよ。この手帳にはJIS規格の材料一覧表がある……あった、これだよ」父親はまるで自分の調べ物でも見つけたように大きな声でいった。「これだ、これだ。金太よく聞きなさいよ。ここに硬質塩化ビニール管の一覧表がある。そのなかの呼び径13ミリというところに外径18ミリとある。だが、10ミリとなるとこれより細い。JISの規格にないってことになるから……。ちょっと待ってろよ参考までに見せてやるから」
父親はベランダに出てすぐ戻って来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます