第34話

 金太が思いついたように言い出したには理由があった。高速道路を走ると絶えず表示板が目に飛び込んで来る。なにげなくそれを見ていたとき、目的地までの距離数字からふと思い出したのだ。

「ああ、あの数字な。お父さん覚えてるよ。『CM』っていってすぐピンと来るのはコマーシャルか、長さの単位であるセンチメートルくらいだよな」

「ぼくもそう思う。あと考えられるのは、うーん……やっぱりない」金太はおどけて自分の頭をぽかぽかと叩く真似をする。「じゃあ、数字の『1.0』はなにを意味してるんだろう?」小首を傾げたついでにドアウインドーに頭を凭せ掛けた。

 突然ウインカーを出した父親は、スピードを緩めて路肩に車を停めた。これ以上ほか事を考えて走るのは危険と判断をしたからだ。金太は驚きの表情を隠せない。

「もし1.0センチだとすると、10ミリの長さということになる」

「10ミリ……?」

「お父さんの仕事は自動車部品の製造だろ。仕事上で使うのはすべて単位がミリなんだよ。まあそれくらい精密な仕事だからだ。だから1.0センチをミリに換算すると10ミリになる」

「そうなんだ」

「金太もそうだろうけど、普通の人はミリで表示なんかしない。だからひょっとしたら、河合のお爺さんもそのつもりで書いた可能性がなくもない。もしお父さんの推理が合ってたとしたら、1.0センチの長さということになる」

 そこまでいうと、ドアウインドウを降ろしてタバコを喫いはじめた。熱気が車内をぐるぐると回りはじめる。

「……だったら1.0センチの長さってなんの意味があるんだろ?」

「うーん」唸り声を出しながら父親はタバコの灰を窓の外にはらった。ひょっとして……まさか」聞こえるか聞こえないような小さな声で呟いた。

「まさかって?」

「いや、あの数字が直径かもしれんと思ったんだが、でも直径なら『径』とか『φ』を表示するはずだ」

 父親は自信のある言い方をした。

「ねえ、お父さん、引き返そうか?」

「えッ」タバコを灰皿に圧し付ける。

「ぼく、お願いがあるんだけど……」

「なに?」

「海に行かなくていいや。そのかわりパーキングエリアかファミレスでおいしいハンバーグを食べて家に帰ろ」

 いままで正面しか見てない金太だったが、いま父親の顔をちゃんと見て話している。

「金太さえよければ、お父さんは構わんけど」

 せっかく金太が自分の意思を表示しているのに、気分を害してこれまでよりも親子の距離が離れるのを危惧した。

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