第33話
月曜の朝。9時半頃に父親の愛車である日産・エクストレイルに乗った父親と金太は、母親に見送られて家を出た。
考えてみると、父親と一緒に、それもふたりきりで車に乗るなんてずいぶんと前のことになる。丁度一年前、激しい雨の日にカアさんを駅まで迎えに行ったあれ以来だ。
きょうの空はあのときとはまるで違っている。まともに見ることのできないギラギラした夏の太陽が、高速道路を走るエクストレイルのボンネットで踊る。切り取り線のように描かれた中央の白線が導く屈曲しながらどこまでも続くアスファルトの川。ラジオから聞こえる気怠い調子のDJ……このまま助走して浮かび上がり、見知らぬ場所に飛んで行けばいいと思った。
いまふたりを乗せた車は、湘南に向かって走っている。当初ジャンボプールに行く予定だったのだが、いつの間にか湘南の海水浴場に行き先が変わっていた。
高速道路を1時間ほど走った頃、Aパーキングの表示が目に入った。しばらくして父親はハンドルをゆっくり左に切り、パーキングに入って行った。夏休みということもあって、結構車の数が多い。少し離れた場所に車を停めトイレのほうに向かって歩き出す。
用をすませたふたりは喫茶コーナーに立ち寄ると、父親はコーヒーを金太はソフトクリームでしばらく休憩する。
ここまで1時間半ほどの間に、交わした言葉はほとんどない。金太の口から出た言葉は、「うん」「そうでもない」「どっちでもいい」この3種類といっても大袈裟ではなかった。
普段でも滅多に金太から父親に話しかけるということはまずない。考えると、ほとんどちゃんとした会話をしてない。一緒にクイズ番組を観ているときに答えに関して話をすることはあるが、それは親子の会話のうちには入らない。
父親としては思春期の子供になにか話しをと思うのだが、それが逆効果になっていることに気づいていない。一方金太はというと、彼は彼で父親を嫌っているわけではないのだが、父親と会話するという羞恥心とか、父親へのコンプレックスが無言にするのだった。
駐車スペースから車を出すと、茅ヶ崎方面に向けて走り出した。徐々に交通量は多くなって来ている。
さらに30分も走らない頃、金太が突然話しかけた。
「お父さん、この前みんなが秘密基地に集まって、あのお爺さんの暗号解読してたときなんだけど、ノッポが暗号の最後にある『1.0CM』ってなんだろうっていうのが切っ掛けで、それが解読のキーになるに間違いないという結論になったんだ。この数字ってなんだろう?」
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