第30話

 ノッポはファイルをうちわ代わりにしながら黙って暗号を見続けている。

 しばらくして金太が戻って来た。よく冷えてそうな麦茶の入ったプラスチックの水筒をみんなに見せる。一緒に家から持って来た紙コップに注ぎ分けた。次にビニール袋から出したのは、しるこサンドだった。あずきでできたあんをビスケットで挟んだオヤツ菓子で、金太の好物のひとつなのだ。

 袋の端を噛み切ると、大きく開いて机の真ん中に置いた。

「オレ大好きなのこれ。さあみんなも食べていいから」

 瞬く間に水筒の麦茶が半分ほどに減ってしまった。暑い――。

「どう、なにかいい知恵浮かんだ?」

 しるこサンドを口に咥えたまま訊く。

「なんばゆうとっト。まさかそんなに早く糸口は見つからん」

「やっぱりな」

 金太は腕組みをしたまま首を傾げる。

 そのとき、突然ネズミがいった。

「金ちゃん、そのお爺さんがくれたメッセージってあるの?」

「ああ、あるよ」

 クリアファイルから細長い紙を出して机の上に伸ばした。

「実物はずいぶんイメージが違うのね。手書きなんだ」

 アイコは感心してオリジナルメッセージを見ている。

「なあ、金太、ここにある数字はなんね?」

 オリジナルの長い紙を両手で持ち、それを裏返して訊いた。

「なにか書いてあるのか?」

 金太が覗き込むと『393×―61××』という数字が書かれてあった。

「いや、そんなとこに数字が書いてあるなんて全然気づかなかった」

「これってひょっとして、そのお爺さんの電話番号じゃなか?」

「そうだろうか?」

 金太は新しい発見に目を大きく開いた。

「もしこれが電話番号やったら、ここにかけて訊いてみたら即解決するんやなか?」

「それもそうだけど……」

 金太はなにか躊躇しているようだった。

「もし違ったら謝ればすむことだから、かけてみましょうよ」

「そうだよ金ちゃん、かけて直接訊いたほうが早いよ」

 ネズミが水を得た魚のように急に元気になっていった。

 胸のポケットからスマホを取り出したノッポは、金太の目の前に差し出す。

 金太は渋々受け取ったものの、かけ方がわからなくてノッポにかけるように返した。さくさくと電話番号を打ち込んだノッポは、呼び出し音を確認してもう1度金太に渡した。

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