第28話
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ノッポが玄関のチャイムを鳴らしたのは、午後1時丁度だった。時間が正確なのはノッポの性格を現している。玄関で少し立ち話をしていたとき、アイコとネズミが続けて姿を見せた。
「ボラーァ」「ボラーァ」
みんな忘れてなかった。顔を見合わせながら結社決まりの挨拶を交わす。
背の高いノッポは、白のTシャツにGパンで、アイコは人の顔が書いてある黒いTシャツに白いショートパンツ。ネズミはダブダブのカーゴパンツにブルーと白のチェック柄のシャツを着ていた。
「秘密基地の鍵は開けてあるから、みんな先に行っててくれないか。自転車はここに置いておいていいよ。オレすぐに行くから」
金太はみんなにそう伝えると、踵を返して家のなかに入って行った。
ノッポたちは自転車を駐車場のほうに寄せたあと、それほど遠くない秘密基地に向かって歩き出した。
10分ほど遅れて金太が小屋に姿を見せた。右手にはいつものようにコーラが4本とポテトチップスの入ったビニール袋、左手にはクリヤファイルが抱えられていた。
「久しぶりだよな。再会を祝して乾杯しよう」
リーダー金太の音頭で乾杯がはじまった。咽喉が渇いていたのだろう、みんな飲みっぷりがよかった。
「そいで金ちゃん、暗号は解けたの?」
真っ先に口を開いたのは以外にもいちばん年下のネズミだった。
「ううん」金太は口を結んだままかぶりを振った。「誰かわかった?」ひとりひとり順番に顔を見る。その表情を見ただけで聞かなくてもわかった。
「一生懸命に考えたけど、どうにもわからんかった」
ノッポが申し訳なさそうな顔で頭を掻く。
「いやオレのほうこそみんなのところに勝手にメールを送ってごめん」
金太はみんなに謝ったあとで、こうなった経緯をみんなに話した。
「やっぱこれは金太のIQを試されたんやと思うな。もしぼくの推測したとおりだとしたら、ぼくらが手助けしたらマズイんと違う?」
ノッポは冷静な顔でいった。
「そうよね。もし本当にノッポのいったとおりだとしたら、この暗号は金太がひとりで解読しないとだめよ」と、アイコ。
「そんな冷たいこというなよ。オレたち仲間じゃないか。オレの頭がよくないのはみんなよく知ってるだろ? なんとか助けてくれよ」
両手から煙が立ち昇るくらい擦り合わせて懇願する。
「どげんする、みんな」
ノッポは右の人差し指でメガネを上げたあと、アイコとネズミの顔を交互に見る。
「だから、そんなに深刻に考えることないって。学校のテストじゃないんだから。オレひとりじゃ絶対に無理だから、みんなが協力してくれなくて答えが見つけ出せなかったら、お爺さんに謝るだけの話じゃん」
金太はみんなの答えが出る前に必死で言い訳をする。
「そりゃあそうかもしれんけど、ばってん……」
ノッポはどうしたらいいか困惑している
「金太が困ってるんだから、助けてあげない?」
半分ほど残ったコーラーを口にしたあとアイコはいった。
「ぼくもそう思う」
金太からいちばん離れた席にいたネズミが遠慮がちに意見を出した。
「みんながそうゆうんやったらぼくも協力ばせんといかんやろ」
「ありがと、みんな。さすがロビン秘密結社の仲間だ。さっそくだけど、これ……」
クリアファイルのなかから例の文章を印刷した用紙を取り出すと、一枚ずつ配った。
それをしばらく凝視していたノッポがおもむろに口を開いた。
「じつは、金太がメールをくれたあれからずっと考えとったト。そいで考え付いたんは、大体こういった暗号は、鏡文字とかひとつ飛ばし、あるいはふたつ飛ばしで読んだりすると解読できると思った」
「鏡文字ってなに?」
ネズミがポテトチップスに手を伸ばしながら訊く。
「鏡文字っていうのは、上下左右反対に書いた文字のことや。その文字の横に鏡を立てたりすると、鏡にちゃんとした文字が映るやろ。もっと簡単にいうと、救急車のフロントに『AMBULANCE』と書いてある。あれがそうや」
ノッポはネズミに丁寧に説明をした。
「そうなんだ。教えてくれてありがとう」
ポテトチップスを口に放り込んで嬉しそうな顔した。
「ええよ。そいで……」
そういいながら椅子から立ち上がったノッポはGパンのポケットから紙切れを取り出した。紙切れは弓形に反っていた。紙を机の上で丁寧に広げると、手のひらで何度も伸した。
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