第27話

 ―――土曜日の朝。

 金太は夏休みにも関わらず早起きをし、自分だけ早めの朝食を摂った。食事が終わりそうになったとき、会社が休みの父親がダイニングに姿を見せ、

「どうしたんだ金太。今朝はえらく早いじゃないか?」

 朝刊を広げながら話しかける。

「うん、きょうお昼から友だちが遊びに来るんだ」

 手についたパン屑をはたいたあと、残ったオレンジジュースを飲み干した。

「お昼から来るんだろ?」

「そう。でもその前にやっておかなきゃならないことがあるんだよ」

 金太は、久しぶりに友だちに会える高揚感に落ち着くことができなかった。それはいまはじまったことじゃなく、3日まえからずっとそうだった。

 部屋に戻った金太は、暗号を4部印刷する。みんなに渡す資料だった。その後トイレに行き、庭をひと回りし、頼みもしないのに玄関の掃き掃除をするなど、まったく奇異な行動を見せた。

 10時が過ぎた頃、母親に爺ちゃんが使っていた草刈ガマと掃除道具を出してもらうと、秘密基地に向かって一目散に駆けた。

 畑まで来ると、大きな溜め息をひとつ吐いた。あたり一面にエノコロ草やカヤツリ草、白いキクを小さくしたようなヒメジョオンなどが無遠慮に生い茂っている。夏の太陽を受けて生育した彼らは、どれもが腰の辺りまで伸びていた。

 秘密基地の周囲すべての草刈をするのは無理と判断した金太は、とりあえず道路脇の側溝から小屋の扉までを刈ることにした。

 汗みずくになって空地を拵えた金太は、小屋のなかに入るとまずはじめにほとんど開けたことのないガラス戸を開けようと試みる。だがほとんど開閉したことがない窓はそう簡単にはいうことを聞いてくれない。ただでさえ暑気が籠ってるのに、さらに4人もここに入ったら……そう思うとどうしても開けたかった。

(こんなときネズミがいてくれたらこんな思いをしなくてもよかったのに……)

 金太は心のなかでこぼした。

 そういえばネズミはいつも窓を開けるとき、トンカチで窓枠を叩いて開けていた。それを思い出した金太は、机の引き出しからトンカチを取り出すと、窓枠のあちこちを叩いてなんとか全開にすることができた。草いきれを含んだ生温い風が汗の滴る顔にまとわりついた。

 続けて雑巾がけをはじめたが、小屋には机がひとつと椅子がひとつ、あとは丸い食堂椅子が3つあるだけなので、それにはそれほど時間はかからなかった。

 ひと通りの作業をすませた金太は、へろへろになりながら家に帰り、母親に道具を返すと風呂場に飛び込んで行った。



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