第26話
3
次の日の朝、金太は真っ先にパソコンのメーラーを開ける。これまで感じたことのないドキドキ感で胸が痛くなるほどだった。しかし誰からも返事が来てなかった。金太は首を折るようにして目をつむった。
自分だってお手上げ状態で家族に助けを求めたくらいだから、いくら成績優秀なメンバーでもおいそれとはいかないだろう……そう自分に言い聞かせた金太は、諦めて階下に降りて行った。
ハムエッグとトーストで簡単に朝食をすませた金太は、きょうばかりは池に魚を釣りに行く気分になれず、リビングのソファーでごろりと寝転んで天井を眺めていた。
考えることはひとつ。ノッポやアイコ、それにネズミの3人がちゃんとメールを見てくれたのだろうか――それだけだった。
こんなことで悩んでいるくらいなら、いっそのこと直接電話をしてみようかとも思った。だが、金太は中学3年生だが、携帯電話を持たしてもらってない。何度母親に直訴したかわからない。その度に返ってくる母親の言葉は、高校生になったら持たせてあげる、だった。「みんなが持ってる」とか「家に連絡するのに必要だ」とか「学校の先生からかかってくるかもしれない」、そんな理由をいっても母親はまったく取り合ってくれない。いつも聞かされる言葉は、「携帯やスマホなんか持ったら、イジメの対象になるだけ。金太がもう少し大人になってものの良し悪しがわかるようになったら持たしてあげる」とそればかりで、取り付く島もなかった。
そんなことで、彼らに電話をかけるのも家電話からじゃないとかけられない。家電話じゃあ話が筒抜けになってしまうから、どうしてもメールのほうが多くなってしまうのだ。
しばらくメールを送ったことを考えていた金太は、彼らからメールが入るまでの間、やりかけの英語の問題集を片づけようと思った。金太がこんな気持になるということはこれまで考えられないことだった。閑さえあればマンガの本を読んだり、用もないのに秘密基地を覗いて見たり、とにかく机の前から放れたくて仕方がなかった金太なのに、切羽詰まったことを実感したのと河合老人のアドバイスのお陰で、いまやらなければならないことに対して、いくつもの光芒が差し込んで来たことを発見したのだ。
机に向かうと、躊躇なく問題集のページを捲る。メールの着信があれば音で知らせてくれるので、それまでは問題集に集中するように努力した。
結局、午前中メールは1通も着信しなかった。待つ身がこれほど辛いものだと新ためて知らされた金太は、家にじっとしていられなくて、午後になって秘密基地にでも行ってみようと思った。Rの字(ロビン秘密結社の頭文字)のついたキーホルダーを持って秘密基地のそばまで行ったのだが、雑草が酷くて小屋のなかに入るのを躊躇してしまい、キャップを被りなおして炎天下のなかを家に帰った。
夕方、ベッドに寝転がって友だちに借りて来たマンガの本を読んでいたとき、メール着信音が聞こえた気がした。ベッドから跳び起きた金太は、急いでメーラーを立ち上げる。
果たして、待ちに待ったノッポからのメールが届いていた。
金太くんへ
メール見ましたよ。
まだ解読できてませんが、なんか面白そうだよね。
もう少し詳しく話を聞きたいので、3日後の土曜日に秘密基地で会いませんか?
トオル
メールを読んだ金太は、嬉しくなってすぐにOKの返事をトオルに送った。その あとすぐに土曜日にノッポが暗号の件で秘密基地に来ることをアイコとネズミに知らせた。
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