第25話

 当事者の金太は、自分のことで家のなかに不穏な空気が流れはじめたことに後悔した。

「もういいよ。ふたりとも喧嘩なんかするなよ」

 金太はテーブルの中央に置いてあったコピー紙を手にしながらいった。

 

 部屋に戻った金太は、ついコピー紙に目が行ってしまう。

(トウさんも姉ちゃんもだめだった……どうしたらいいんだろう)

 一瞬知らなかったことにしようと思ったものの、河合老人の優しい笑顔を思い出すと、なんとか解読をしてまた老人の家で楽しく話がしたくなった。

 金太は、河合老人とはじめて会ったときのことから順番に回顧してみる。最初はただの近所のお爺さんとしか思えなかった。そのうちに家に遊びに行くようになってそれが一変した。家の大きさに愕いたのもあるが、それより自分の興味がある品物が数多くあったのが無性に惹かれた。また河合老人の家に遊びに行きたい、そんな純粋な気持が心を動かした。

(あッ! そうだ、どうして気づかなかったのだろう、完全に忘れてた)

 突然バネを打ち込まれたかのように躰を真っ直ぐにし、椅子に座りなおすと、パソコンの電源を入れた。マウスを左右に動かしながら画面が明るくなるのを待つ。

 メーラーを立ち上げると、真っ先にノッポのところに残された文章を送り、助太刀を頼んだ。内容は「勉強の間にこの不可解な文章を解読して欲しい」と、簡単に打ち込んで送信した。そのすぐあとアイコとネズミにも同じ内容のメールを送った。

 作業がすむと、これまで焼肉屋の煙みたいに粘り気を含んだモヤモヤが嘘のように吹き飛んでいた。そして金太は、すべてが解決したかのように、そんな爽やかな気分になった。

 あとはいつになるかわからないけれど、みんなからの返事を待つだけだ。

 気づくと、きょうは朝からなんの勉強もしてなかった。毎日少しずつでも勉強するとお爺ちゃんとの約束を思い出した金太は、軽やかな気分のまま英語の問題集を開いた。

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