第24話
ふたりの遣り取りを聞いていた、洗い物をしていた母親が間に入って来る。そしてリビングで野球観戦をしている父親を呼びつける。
食事のすんだ家族がふたたびダイニングに集まる。
「どうしたんだ、ノーアウト満塁で逆転するところなのに」
父親は不満たらたらでダイニングの椅子に座る。次々に腰を降ろすと、増美が父親のほうにコピー紙を向ける。
「金太がこれを解釈して欲しいんだって」
増美ははらりと落ちた髪を耳にかけながらいった。
「なんだ、これは」
これまで黙っていた金太だったが、ここはちゃんと説明しないと先に進まないと思い、河合老人とのことをかいつまんで話し、そしてきょうのメッセージが置いてあったことを聞かせた。そしてクリアファイルに挟んだ河合老人直筆のオリジナルの長い紙も見せた。
「金太くんへって書いてあるんだから、おまえに宛てたものだろうな」
父親はそういったあと、口をへの字に結んでなにか糸口を探しているようだった。
「なんでこんなわけのわからない文章を金太に置いて行ったのかしら」と母親がいう。
「それがわかったら苦労ないだろ。カアさんはいいからお茶でも淹れてくれ」
足手まといのようにいわれた母親は黙って席を立った。
「増美、おまえは現役の高校生だ、なんとかして解読できんのか?」
「無理いわないでよ。いくら高校生だってこんな暗号みたいな文章わかるわけないでしょ」
「そうか、暗号か。暗号ねえ」
父親はすっかり野球を忘れてこっちに熱中している。どうやら隠れていたスイッチを押してしまったようだ。
父親と姉の増美が頭をくっつけるようにして文章とにらめっこをしている。
お茶を運んで来た母親がふたりの格好を見て、「どう、なにかわかった?」と、まるで他人事のような言い方をする。あまり興味がないといった顔でそれぞれの前に湯呑を置く。
「まったくわからん。増美、弟のためになんとか解読してやれ」
父親はお手上げだといわんばかりに、タバコに火を点けた。
「ちょっと、やめてよ。ここでタバコなんか喫わないでよ。まったくデリカシーがないんだから」
苛立つ増美は父親に八つ当たりをしはじめる。娘の剣幕にさすがの父親も慌てて灰皿にタバコを押し付けた。
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