第23話

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 ―――

 午後7時になろうとしたとき、家族揃っての夕食がはじまった。

 まだ外は明るさが残っている時間の夕食は、なんだか得した気分になった。

 きょうの夕飯は、メンチカツと麻婆茄子だった。

「最近真面目に勉強してるみたいだね、金太」

 口のなかにご飯を入れたまま、姉の増美が隣に座っている金太に訊く。

「最近だけじゃねえよ。ずっと前からやってるし」残り少なくなった麻婆茄子をスプーンですくいながら答える。「そういう姉ちゃんだって、大学受験があるのに、クラブに一生懸命だけど大丈夫なんか?」

 増美は都立K高等学校の2年生で、バスケットクラブに所属している。バスケットは中学のときからずっとやって来たのだが、受験のことを考えて1年間で辞めるはずだった。だがクラブ内にごたごたが起きて、辞めることができずに現在に至ってしまった。まだ金太と違って学校の成績には影響してないのがせめてもの救いだった。

「あんたは余計な心配しなくてもいいの。あんたとは頭の構造が違うんだからね」

 これまで何度も金太のテストを見ている増美はそれだけはいわれたくなかった。

「ほらほら、ふたりとも仲良く食事しなさい。ねえ金太、そういえばあの河合のお爺ちゃんってどうしたの? 病気じゃないの?」

 金太がふたつ目のメンチカツを食べようと箸を伸ばしたとき、突然母親が話題を変えた。

「うん、夏休みの旅行にでもいってるんじゃないの」

 金太は食べるのに一生懸命で、話の内容に集中していないみたいだった。

「河合のお爺ちゃんって、前においしいマスカットくれた人?」と、増美。

「そう。金太がいうには、最近顔を見てないから旅行に行ってるのか、旅行ならいいけど、ひょっとして病気だとお爺ちゃんは独り暮らしだっていうから……」

 母親は箸を持ったまま金太のほうを見る。

「大丈夫だよ。病気だったらお手伝いの君代さんが面倒見てるよ」

 そこまで話したとき、金太はあることを思いついた。

 食事がすみ、父親はリビングでプロ野球中継に熱中し、母親と増美が片づけものをしていたとき、金太が2階から降りて来て、姉の増美に声をかけた。

「姉ちゃん、これなんだけど、意味わかる?」

 ダイニングテーブルに例のコピー紙をはらりと置いた。さっきまでは強がって自分でなんとかするつもりだったのだが、「三人寄れば文殊の知恵」ということわざを思い出し、効率的に物事を進めようと頭を切り替えた。

「なに、それ」増美は冷蔵庫の横に取り付けてあるタオルで手を拭くと、ショートカットの髪を指で耳にかけながらコピー紙を手にした。「はあ? なにこれ」眉間に皺を寄せた。

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