第22話

 机に向かった金太は、ポケットから大事そうに折り畳んだ紙を取り出すと、そっと机の上に広げてみた。ただでさえ意味不明なのにポケットに入れていたせいか皺が増えて余計読みにくくなってしまった。

 しばらく紙切れと睨めっこをしていた金太は、なにかを思いついたのか、突然パソコンの電源を入れた。

 なかなかパソコンが立ち上がらない。じれったくなった金太は、キツツキのように人差し指で何度も机を叩いた。

 ようやく姿を見せたデスクトップから文章ソフトを開き、A4の用紙設定をしてから手もとにあるメッセージを丸ごと打ち込んだ。そしてプリンターで印刷すると、間違いがないか1文字ずつ確認した。間違いのないことがわかると、細長い紙をクリヤファイルに挟んで机の引き出しにしまった。

 あらためてプリントされたA4用紙をしげしげと見る。きっとこれは老人が夏休みの宿題のつもりであそこに貼っておいたに違いない。でも散歩で池にも来ないし家には誰もいない……とすれば長い旅行にでも出かけるから、戻るまでに答えを見つけておきなさいということに違いない。金太は都合のいいように解釈をした。

 金太はキーボードを手もとに引き寄せると、文章をそのまま検索してみた。だが残念なことにヒントになるようなものはなにひとつなかった。

 その後も、文章を検索エンジンの力を借りて単語や熟語に分断して調べてみることにした。

 まずはじめに、冒頭部分を「スイカ」で切るとあとがまったく続かないので、今度は「スイカツラ」と切ってみることにした。すると最初は増毛やカツラのサイトばかりが現れたが、もう少しスクロールしてみるとウィキペディアに「スイカズラ科の植物」とあり、それとは別に「怪異・妖怪データーベース」というサイトのなかに「スイカツラ」という妖怪が紹介されていた。

 そのあとの言葉を「ウレイ」「アヤマチ」「ヤメバ」「ウシコ」「サワグ」と区切ってみた。そしてなんの根拠もなかったが、

『スイカツラの憂いを、過ちと病めば、牛仔も騒ぐ』

 こんな文章ができ上がった。だが、これがなにを意味するのかいまだに謎のままだ。

 先ほどパソコンに打ち込んだ文章の下にこれを追加すると、新しく印刷した紙を見ながら、金太は時間を忘れて謎の文章に没頭した。

 そのとき、部屋のドアがノックされた。返事をしながらドアを開けると、そこに母親が立っていた。

「金太どうしたの? 何度読んでも返事がないから。お昼ができたから、降りてらっしゃい」

 母親は心配していたのか、いつもと同じ金太の顔だったことに安堵の色を見せた。

「わかった。ちょっと集中してたから、聞こえなかった。片づけたらすぐ降りてくよ」

 

 昼飯をすませると、いつもはだらだらとテレビを観ている金太だが、珍しく自分の食べた食器をシンクまで運び、なにもいわずにまた自分の部屋に閉じこもった。いつもと様子が違うと感じている母親だったが、このところ真面目に勉強をしているみたいだから余計なことをいわないようにそっとしておくことにした。

 部屋に戻った金太は、プリントアウトしたコピー紙を手にしてベッドにごろりと寝転がった。場所を変えたら新しいなにかが思い浮かぶかもしれないと思った。

 右手でコピー紙の端の部分を掴み、透かすように持ちながら何度もふたつの文章を交互に眺めた。そのうちに、顔にコピー紙を載せたまま違う世界を訪っていた。

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